さらに円高が進んだとき、私たちは(坂口孝則)

さらに円高が進んだとき、私たちは(坂口孝則)

中部電力が浜岡原発を止めることになりました。将来のエネルギー政策構想がまだ固まらないうちに菅総理は勝手に何をやっているのか、などという批判はこのさい自粛しておきましょう。私は菅直人という人をほとんど評価しませんが、あの打たれ強さと、浜岡原発停止の突飛さは評価して良いのではないかと思います。

電気の少なからぬ部分が、福島原発と浜岡原発によって失われることになります。原発廃止が良いことかどうかは、まだ断言できません。研究者によって、原発のコスト評価と安全性評価がばらつきすぎるからです。原子力発電推進学者は、原子力発電がもっとも安価な発電方法だと説きます(当たり前ですが)。ただ、他の学者によると、原子力発電による核廃棄物処理コストや、原発事故の対応コストを加算すると、火力発電が安価になります。

CO2排出量も測定の仕方によってばらつきがあります。原子力発電がクリーンかというと、そんなことはなく、発電プロセスにおいてCO2が大量に出ることが明らかになっています。でも、その他の発電が良いわけでもありません。それに火力発電も生態系を破壊する可能性があります。風力発電も安定性や低周波問題は失念してはいけないでしょう。

長期的な議論ではなく、短期的な議論に話を移します。長期的に選択すべき発電手法はまだわかりません。ただ、今年(2011年)だけを見ても、電力不足はかなり深刻になるでしょう。電力不足は、日本経済の生産活動に大きな影響を及ぼします。しかし、被災地の復興を先送りすることはできないでしょう。被災地への復興投資もやりつつ、電力不足による生産減も同時実現する必要があります。要するに、被災地の復興をやっているあいだは供給減にならざをえないので、国民の需要も減るように導かねばなりません。

これはきわめて日本経済にとって特異なことだ、と私は思います。というのも、これまで経済政策とは、需要を増やすために行われてきたところ、今回の政策は需要を減らすために実施されるからです。供給が制限されている場合にしか、このような需要を減らす政策は実施されません。おそらく、需要を減らすための政策はオイルショック時のそれくらいではなかったでしょうか。あとの経済政策で、国民の需要を減らそうとするものは見当たりません。

さて、これから将来の予想図を描きましょう。考えられるのは次のとおりです。

1.復興のための投資がさかんになる
2.金利が上昇する
3.さらに円高が進む

わかりにくいかもしれません。まず被災地があのような状況になっているわけですから、復興のための投資はさかんになります(これが1)。これはわかりますよね。そして、そのための借入が急増すれば、もちろん金利は上がります。直感的にはお金を借りる人がいなければ金利は下がる(そうではないと誰も借りてくれないから)、逆に借りるべき人がたくさんいれば金利は上がる。金利が上がると、さらに、円に投機する人が増えます。円が買われることで、円高は進むでしょう。

もちろん、日本政府が円高抑制のために介入することはあるでしょう。ただ、大きな流れとしては円高基調であることは変わらないはずです。一時70円台をつけた、円ドル相場ですが、もしかすると60円台もありうるかもしれません。

と、ここまでやってきて、原発問題から、被災地復興、そして円高までがつながりました。風が吹けば桶屋が儲かる、ではないですけれど、原発問題はそのまま円高問題につながっていたわけです。日本経済全体として円高を忌避する傾向がありますけれど、私はそうは思いません。海外から安価な商品を買うことができる、とは国力の表れです。何も避けるべきことではありません(と私は思っています)。

それにもっとも重要な点は、海外から商品を買う、海外から製品を輸入することは、海外のエネルギーを輸入していることと等価であることです。輸入した製品を生産するために必要な電力や労働力や資源を買うことと同義なのです。以前、外国人労働者の受け入れ可否が問題になりました。ただ、日本としては海外で生産された製品を輸入すれば、わざわざ日本に外国人労働者を受け入れずとも、同効果が期待できます。

製品を輸入することによって、電力の節約と同効果が期待できる(製品の生産地が海外であれば、その分、電力を節約したことと同義だから)のです。ただし、このことを明確に言っている人はあまり見かけません。おそらく、生産を海外に移行することは、日本の空洞化という悪しきイメージとセットだからでしょう。

ただ、繰り返しになりますが、日本で必要なことは「復興」と「需要抑制」の二つでした。後者を実現しようとすると、必然的に国内生産を縮小せざるをえません。電力不足からも、それは必然です。とするなら、いま日本にもっとも重要なのは、いかに不足エネルギーを、製品の輸入という形で海外にシフトするかです。それをフォローするかのように円高になるであろう必然もお話ししました。

しかし、「エネルギー不足を補う」という意味において、海外からの輸入促進を語っている人がいないことは寂しい限りです。

私は思います。リーマンショック後の調達・購買活動が「コスト削減による企業利益の下支え」であったとするならば、東北震災後の調達・購買活動は「海外へのエネルギー分散による日本経済の安全化」にその活躍の場所を移行すべきではないかと。

輸入拡大へ準備を。おそらく、それは輸入比率の向上以上の、日本復興への足がかりにもなるものだから。

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