いまさら始める海外調達 2011夏編(牧野直哉)

いまさら始める海外調達 2011夏編(牧野直哉)

大震災の余波で日本の供給力に大きな問題が発生。そして、史上最高値を更新する為替相場を目の当たりにすると、海外サプライヤーの魅力は以前にも増して高まっています。しかし、為替が高くなったからという理由だけで闇雲に海外へ供給源を求める事はやめましょう。円高という追い風があるからこそ、よりよい交易条件を求め、的確な方向性をもち、長期的な視野に立った海外からの調達を推し進めることが必要です。今回は、今海外調達を進める上でのポイントを3つ挙げてみたいと思います。

1.円高の扱い方

繰り返しますが、対ドル80円前半で推移する為替レートは、海外製品の価格面での魅力を増大させます。自社製品のマーケットが国内であっても、海外製品の採用によるコストメリットは大きいですね。無論海外を市場とする企業であれば、そのメリットは絶大です。特に、震災以降の為替レートの推移を見れば。円高をきっかけにして海外サプライヤーへ目を向けることも、バイヤーとしては当然のリアクションといえます。「きっかけ」としては「アリ」と考えます。

海外のサプライヤーから調達を行った結果、現時点では大きなメリットも想定できます。しかしメリットは大きく変動する可能性があります。市況によって円安へ推移したときにどうするのか。3月の震災で、サプライヤーの分散化の必要性が叫ばれている折でもあります。だからこそ、日本国内のサプライヤーからの購入を全量海外へとシフトするゼロサム的ソーシングは避けるべきでしょう。これまで、円高=海外調達として、円安局面へ移行した際に海外サプライヤーから撤退した苦い経験を繰り返さないためです。是非とも長期的な視野での取引の実施可否を模索しましょう。さもなければ、海外のサプライヤーは、今や日本の顧客に振り向いてはくれないかもしれません。それは以下の3でその理由を述べます。

2.震災にとらわれない

この題名には、身近に未だ苦しみの真っ直中にいる方がおられ、お気を悪くされたかもしれません。震災直後は、世界各国からの義援金や救助隊の派遣、さまざまな物資の提供、そしてSong for Japanといった取り組みが行なわれました。3ヶ月以上がたった現在、被災地により遠い海外では、確実に被害への認識も薄れつつあります。読者の皆さんの中には、震災影響の代替供給ソースとして海外サプライヤーを検討されている方もおられるでしょう。既に震災は過去の出来事です。きっかけは震災影響かもしれませんが、これから始める海外サプライヤーとの取引は、震災影響の代替リソースの発掘でないことを明言します。恒久的なものとしましょう。結果として、様々な問題が発生し、解決しない中で被害を受けたサプライヤーが復旧し、供給が再開することはあるでしょう。その場合はデュアルソース化への取り組みに修正し、海外サプライヤーとの取り組みを継続させることが必要です。

この度の震災は、千年に一度のものと言われています。日本人にとっては同じ国内で起こった未曾有の災害かもしれません。一方、結果的に震災と同じような被害をもたらすテロ、戦争といったリスクは、海外に多く存在します。そういう意味でも天災リスクだけでなく日本では想定できないリスクをより注視することも必要です。

3.日本の「あたりまえ」「かつての地位」を忘れる

かつてのLCC(Low Cost Country)を目指した海外調達は、人件費の安さというメリットにフォーカスしたものでした。そして多くのバイヤーが、人件費が安くとも日本のサプライヤーと同じ品質を海外のサプライヤーへ求めました。私がアジアのLCCと呼ばれる国にあるサプライヤーと取引を行なった経験でいえば、依然として品質面で問題を抱えている場合が多い。一方で昨今日本だから高品質であるとの構図は崩れつつある事件が、たくさん明るみに出ています。裏を返せば、LCCと呼ばれる国のサプライヤーも品質が今の状態のままで推移するとは限りません。事実、自社の生産技術を積極的にLCCのサプライヤーへ伝えることで、利益を得ている日本企業もあります。これから成長する見通しでは、圧倒的にLCCと呼ばれる国のサプライヤーに大きな可能性があります。

可能性だけにかけることができない現状もありますね。一方安かろう、悪かろうで済む話でもありません。今回から本論ではバイヤーが携わるべき品質論とお伝えしています。海外のサプライヤーとビジネスを行なう上で、品質は重要なポイントです。海外のサプライヤーとのやり取りで最も慎まなければならないのは「あたりまえ」思考です。日本における多くの軽微な不具合は、海外では不具合になりません。過去に「ナレッジマネジメント」が日本でも話題になりました。これは人々の、そして組織の中にある「暗黙知」を「形式知」にすることを意味します。日本人バイヤーの弱さの一因が、過度な「暗黙知」への依存です。あたりまえと思しき知識であっても、その要否を有効性、実現可否含めて確認することが必要です。

そして日本のかつての地位も忘れなければなりません。昨年日本は第三位の経済大国になりました。確かに日本に取って代わった中国の成長力はすさまじいものがあります。でも日本はバブル崩壊以降、ほとんど成長していないと言っても過言ではありません。昨年2位から3位へと落ちたことは、日本という国家の購買力には大きな影響を与えています。また2位となった中国は、グローバルでのポジションはいまや完全に「市場」です。従い、1990年代の円高とは、日本の購買力が相対的に落ちていることも念頭に置かなければなりません。グローバルマーケットにおける上顧客は日本よりも確実に中国なのです。

海外調達といえば、海外サプライヤーの日本の常識ではありえない行状を愚痴として語り合う風潮が日本のバイヤーに多くみることができます。依然としてそういう部分も残っているのは事実です。この構図は、1980年代のプラザ合意以降に日本を襲った円高の際と全く変わっていません。世界は大きく変化しています。変わっていないのは、日本人バイヤーの認識だけかもしれません。そんなことを踏まえて、大きな可能性を秘めた海外サプライヤーとのビジネスを花咲かせて欲しいと願うのです。

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