【保存版】下請法改正と調達の危機

【保存版】下請法改正と調達の危機

やばい。

正直に告白します。昨年に下請法の改正を聞いたとき、あまり大した話では
ないと思っていました。しかし、これは相当な危機感が必要ではないかと思
うにいたりました。

下請法を詳細に語る時間はありません。下請中小企業を保護する法律だと思
ってください。行政としては、この下請法を強化する考えを2016年に発
表しています。流れを簡単にご紹介しましょう。

時間は2015年に遡ります。2015年度(2015年ではありません、
2015年度です)は、下請法の是正指導が5980件と最多にいたりまし
た。遵法精神が浸潤しているにもかかわらず、下請法だけは異常な状況だっ
たのです。

そして注目すべきはその内容でした。それまでは、期日までに代金を支払わ
ない「支払遅延」や、勝手に取引価格を引き下げる「減額」がその大半でし
た。しかし、2014年度以降は、「買い叩き」が急増していったのです。
その数は、倍々と増えていきました。2015年度の指導件数は631件で
すから、その2年前の実に7倍にいたります。

こう知ると行政が下請法強化に乗り出した理由がわかります。景気がなんと
か持ち直しているにもかかわらず、なぜ中小企業を中心として実感がないの
か。それは商習慣ゆえだ。と、行政が考えても不思議ではありません。

安倍首相は2016年9月に所信表明演説を行っていますが、その問題意識
は明らかです。いわく<下請法の運用基準を13年ぶりに抜本改定し、下請
取引の条件改善を進めます。低金利融資による資金繰り支援と併せ、地域経
済を支える金融機関のセーフティーネットである金融機能強化法を延長しま
す>とかなり強調なさっています。

大企業が利益を稼いでも、下請け企業との取引関係を改善していないのでは
ないか、という思惑です。

主な改正点は次になる予定です。

1.「一律3%削減」というようなコスト削減要請の禁止

2.労務費の上昇分を取引額に反映するよう要請

3.金型保管コストを下請事業者に払うよう要請

4.支払条件の改善(現金払いの要請)

上記のうち、3について動いたのは自動車業界です。彼らは自工会を中心と
して、サプライヤに金型の点数削減を依頼しました。つまり、発注しないの
にサプライヤがもっている金型を廃棄していいですよ、と通達したのです。
これで金型の保管コストを削減しようとしています。

しかし、注意せねばならないのは、2でしょう。これはすなわち「実態に即
した価格交渉をやってください」ということです。協議に応じてください、
と調達・購買部門に申し入れているわけです。

これまで下請法における「買い叩き」の要件とは「通常支払われるべき対価
に比べて著しく低い額」だとしてきました。私もそのように講義ではお伝え
してきました。しかし、これ以降は、なんと「下請事業者と十分な協議なく、
一方的に従来通りの単価を据え置く」とされるのです! おそるべき話です。

つまり何もやっていなくても、いや、何もやっていないからこそ、違反認定
される可能性があるのです。

値上げ要請にたいし、「そもそもそのような交渉には応じません」とメール
を出してしまうと、それが違反の証拠として採用されかねません。ポジティ
ブアクションではなく、ネガティブなアクションが、マイナスに作用する場
合が考えられます。

そして重要なのは、本社だけではなく、グループ会社全体で新たな下請法運
用基準を守るべき点です。もしグループ会社でも違反事例が開示されればグ
ループ各社への影響は避けがたいと思われます。

これからも下請法の改正実態がわかればお伝えしていきます。ただ、冒頭で
申し上げたとおり、注意するにこしたことはありません。

と同時に、適正な価格査定をやっていれば恐れることはありません。この流
れが指し示しているのは、「買い叩き資本主義」の終焉なのです。買い叩き
から、科学的査定へ。私が10年来ほど申し上げてきた時代がやっと到来し
つつあるのです。

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