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ISM総会レポート(牧野直哉)
先日アメリカのオーランドで開催された第96回ISM(全米供給者協会、日経新聞による訳)総会の模様を報告します。
オーランドは、ディズニーワールドやユニバーサルスタジオ、シーワールドなどテーマパークが集結した都市として知られています。また、スペースシャトルが打ち上げられるケネディ宇宙センターもこの都市です。アメリカ合衆国の東海岸最南端に位置するフロリダ州のちょうど真ん中くらいの位置。今回オーランド国際空港に着陸するときに「ずいぶんと湖が多いなぁ」なんて思っていました。なんと300以上もの湖があって、フィッシングやボートのメッカでもあります。そんな「リゾート」真っ直中の会場で開幕しました。(写真の空も真っ青ですよね)
ISM総会は、日曜日お昼の基調講演で開幕します。以降、一時間~最長四時間ものセッションが水曜日の午前中まで開催されます。
基本的には、どのカンファレンスにも自由に参加することができます。(プログラムには事前予約要と書かれているものもあります)同じ時間に10ものカンファレンスが行なわれるので、あれも聞きたい、これも聞きたいなんてことになります。私は勤務先が製造業なので、Track #5 Manufacturingで推薦されたカンファレンスを中心に出席しました。
● 2011年 製造業の調達・購買におけるキーワード
1. グローバルサプライチェーン
2. リーン
3. トータルコスト
今年のカンファレンスでは、上記3つのキーワードが連呼(笑)されていました。それほどにどのカンファレンスへ行っても聞くことができた言葉でした。他にもDiversityやSustainabilityといった言葉も多く聞かれました。現在の経済環境を踏まえ、まさに独断と偏見でそれぞれのキーワードについて説明を進めます。
まず、現在の景気動向についてです。これは、次の講演によるものです。
● Economic Keynote — Business Survey/Economic Outlook Presentation
Norbert J. Ore, CPSM, C.P.M.; Anthony S. Nieves, C.P.M., CFPM
William Dunkelberg, Ph.D. David Hensley, Ph.D.
この講演では、冒頭でISM Indexによる経済状況の分析が行なわれました。これは毎月初旬にISMから発表される数値そのものです。アメリカ景気の先行指標として、日本でも日本経済新聞では毎月報じられる他、シンクタンクからも毎月レポートが発表されています。製造業は1931年から、サービス業は1998年から毎月発表されています。話された内容のポイントは、次の4点。
① 2011年4月の製造業稼働率は、2010年対比で約10%上昇している
② 投資は、①と同じ時期に17.9%上昇
③ 購入価格の平均は昨年末対比で6.1%上昇
④ 売上は前年度対比で7.5%上昇
成長し続ける国アメリカを象徴する、まさに景気の良い話でした。一方で、気になる数値もありました。上記のような景気拡大基調にありながらも、雇用の拡大は2.9%にとどまっています。まさにJobless Recoveryですね。そして、このような経済状況が、カンファレンスで提起される問題意識に直結しています。それでは、先に提示した3つのキーワードを、それぞれ説明します。
1. グローバルサプライチェーン
私は以前より、アメリカのサプライヤーから様々な製品を購入してきました。多種多様な製品なので、取引や商談経緯になかなか共通点を見いだすことは困難です。しかし一点だけ共通点を挙げるとすると、アメリカのサプライヤーは基本的に海外との取引を積極的に進めたいとは思っていません。中間財のサプライヤーは顕著でした。自ら積極的に売っていくとの姿勢はありませんでした。
日本で知名度の高いアメリカの企業は、基本的にグローバルに展開しているほんの一部の企業です。広大な国土と3億人を超える人口。人口比で日本の2.3倍、GDPでは約3倍の規模です。アメリカ国内でも十分な需要があるのです。従い、あえて海外のマーケットに行く必要がなかった。少なくともリーマン前までは、です。
そして、先に説明した通り、米国経済は既に回復しています。それがリーマンショック前と同じ姿に戻ったのかといえば、それは違います。データ上も、売上や設備投資の拡大によって、米国内製造業の稼働率はアップしています。しかし、回復に見合うほどに雇用は拡大していない。いわゆるJobless Recoveryですね。では、そのレスされた雇用で行なわれていた仕事は消えてしまったのでしょうか。それはLCCと呼ばれる国から調達されているのです。
今回のISM総会で使われたグローバルという言葉。私は、従来の一部の多国籍企業のものであったグローバリゼーションが、リーマンショックからの立ち上がりの中でコモディティ化していると考えています。顕著に示す例が、サプライヤーのオフショア化です。この前提条件により、さまざまな問題が顕在化し、次のキーワードへと繋がってゆくのです。
2. リーン
そもそもリーン(Lean)とは、このような語彙があります。
《やせた、引き締まった、などの意》生産方式や企業で、無駄を排したさま。「力強い―な会社」~小学館 デジタル大辞泉より
リソースのオフショア化は、物理的にサプライチェーンを長くします。従来は地場ですべてまかなっていました。そんな中LCCからの調達を増やします。すると、リソースによってはアジアや中南米から供給されることになります。結果、サプライチェーンの至る所に無理や無駄が含まれることになり、費用的に肥大化してしまったというのです。費用面だけではありません。もっと深刻な問題を抱えているとしたセッションがありました。
・BI — Total Cost in 60 Seconds David Belferman; Katherine Stando
このセッションは、日本でも見かける本のような題名です。60秒でトータルコストを掴むとされたこのセッションでは、サプライチェーンの距離が物理的に長くなることで、多くの無駄が内包されることになること。そして最も深刻な影響は、複雑化したサプライチェーンによって、意思決定のタイミングが遅れること、そして誤ってしまうことであると断じていました。従い、一刻も早く事態を正しく掌握し、適切な意思決定を行なうための支援ツールとして、60秒でトータルコストを掴むためのアクションを紹介していたのです。
紹介されたアクション自体は、コスト発生要素毎に膨大なデータベースを抱え、エクセルで一覧できる表に表すというものでした。その表を示されたら、確かに60秒で掌握が可能かもしれません。しかし60秒の影には、膨大なデータの蓄積とインプット、そして運用にはデータの更新が必要です。そんな試みにも、特筆すべき点がありました。具体例として紹介された内容は、次のような例です。
3.トータルコスト
発注元:英国
発注先:候補1 ドイツのサプライヤー
候補2 韓国のサプライヤー
上記の条件で、それぞれのQCDとトータルコスト評価が一表に示されます。特筆すべきは、次の3点です。
(1) 特別なソフトを使用することなく、アクセス、エクセルといった標準的なオフィスソフトで仕組を構築していること
(2) 納期が「日」でなく、「時間」で表現されていたこと(各国の輸出通関についても××時間と表示されており、特に物流分野の詳細なデータには、驚かされました。各国のデータベースが整備されているそうです)
(3) QCDは、最終的にはリスクプレミアムという係数に置き換えられ、製造コストに付加して最終的に評価される仕組となっていること(リスクプレミアムの算出方法は教えてもらえなかった、残念)
駆け足で今回もっとも印象的な内容をご紹介しました。実は、ご紹介した3つのキーワードは、様々なセッションで多用されています。