ほんとうに「全崩壊」しないために~論点と難点3:「下請企業が全崩壊する日」(牧野直哉)

ほんとうに「全崩壊」しないために~論点と難点3:「下請企業が全崩壊する日」(牧野直哉)

1月の終わりに開催された2012年を読み解く会では、第一線で活躍するバイヤーが様々な切り口で2012年を読み解くことに挑戦しました。今回はそれぞれのテーマを私が読み解く2回目。「論点と難点3:「下請企業が全崩壊する日」です。

開催されてから一ヶ月が経過しました。このテーマについて、とっても興味深い記事をネットで見かけました。こんな記事です。( http://bit.ly/Ahb6P5 調査結果本文は http://bit.ly/wzUczx )記事のポイントは、超円高の影響で自社の経営になんらかの影響がでている中小企業の割合が33.3%に及ぶとの点です。ウェブ上の記事も「中小の3割に影響」とあります。ということは、残り7割(ちかく)は、影響を受けていないということです。ということは、少なくとも超円高は乗り切れる、全崩壊しないことになります。

この数字、とっても意味のある数値です。マスコミの報道に翻弄されないように、と考えていた私も「意外に少なくないか」と感じたほどです。しかし、よくよく考えれば、これはとっても妥当性のある数字なのです。そう考える理由を以下に示します。

・日本の輸出依存度との関係

総務省の発表する統計データ( http://bit.ly/z31dA9 )によると、日本の輸出依存度は11.4%(2009年)となっています。このメールマガジンでは何度もお伝えしていますが、超円高は多くの地下資源を輸入に頼る日本にはメリットが大きいはずです。そして、外貨建ての輸出に際してのみ、円貨換算での価格が減少します。輸出依存度のレベルからみれば、3割の企業に影響があるというのも多すぎると感じますね

調査結果を詳細にみてゆくと、製造業の仕事が減った影響で、地域経済に影を落とすことを危惧したり、製造業で働く人の宿泊が減ったりといった間接的な影響を危惧する声も述べられています。このことから、おおざっぱにいって、今回の超円高の影響を直接受けた中小企業が約10%、そして二次的な影響を受けた企業が残りの約20%と考えることができるのではないでしょうか。

・「超円高」による原材料費高騰による影響の矮小化

データから判断すればさほど驚くこともありませんが、残りの70%は今回の「超円高」と呼ばれ演出された経済的な災禍の下でも、さほど影響を受けずにいるわけですね。しかし、この70%を占める企業でも、これからずっとその安定を享受し続けられるとの保証はありません。超円高で相殺されている原材料価格高騰の影響は、ひとたび円高に転じれば今より一層、日本経済に大きな足かせとなります。たとえば、電力料金の値上げについても、根本的な要因は原子力発電所の停止に伴う影響です。それによってより多くの調達が必要となった燃料の価格が、現在のまま推移してもし円安へ転じたらどうなるのか、ちょっと想定したくない事態ですね。でも今、そんな事態を想定する必要があるのではないでしょうか。超円高を嘆くよりも、日本では生み出すことができないもの、海外から購入しなければならないものを、安定的に、できれば適正な価格で購入するための手立てを今、準備しなければならないのではないか。もし、そんな準備を怠ってしまったら、それこそ下請け企業が全崩壊になるのです。製造業も非製造業も関係ない、それこそ「全崩壊」です。

・残念な「コスト削減」の持つイメージ

数年前、世間を騒がせたマンションの耐震偽装問題。そして先日海中のトンネル工事中に発生した落盤事故。どちらも報じる際に「コスト削減」を原因として報じるマスコミが目立ちます( http://bit.ly/yvMVNp )提示した例でも「?」こそありますが、見出しに原因を「コスト削減」かのごとく表示していますよね。私は先にリンクを示した記事に、日本の「コスト削減」に対するとても残念な潜在的な意識を感じます。なにか、後ろ暗いもので、安全を軽視することにつながるものといった位置づけです。だから、多くの人がやりたがらない。このメールマガジンの読者の皆さんの中でも、コスト削減に協力的でない同僚に苦労されておられるかたも多いでしょう。

コスト削減は、バイヤーが営業マンに要求して、渋々「しょうがないか~」と対処するものではありません。大きく利益に貢献できる有効な手法です。しかし、マスコミを代表する大多数の認識は、なにか、いやしい事をやっているかのごとくですね。こうなってしまった責任の一端は、我々調達購買にたずさわってきた側にもあります。

拙著「大震災のとき!企業の 調達・購買部門はこう動いた これからのほんとうのリスクヘッジ( http://amzn.to/yHQpDA )」の経済評論家の森永卓郎さんによる書評が週刊ポストに掲載されたことがあります。冒頭の一節を引用します。

正直言うと私はバイヤーに良いイメージを持っていなかった。メーカーの営業担当を恫喝するようにして追い詰め、利益が出ないところまで値切る量販店のバイヤーのイメージがあったからだ。しかし、この本を読んで、バイヤーのイメージがすっかり変わった。 ※週刊ポスト2011年12月9日号に掲載

これは掲載されたまさに冒頭の部分です。これ、一般人のバイヤーという職業に持つイメージを如実に表していないでしょうか。その残念なイメージの象徴が「コスト削減」なのです。

・コスト削減の先導者に

仮に、日本の下請けが全崩壊するとします。その原因は、円高よりも円安ではないかと考えています。コスト削減という創造的で尊い活動への間違ったマイナスイメージを持つ前掲の70%の中小企業は、原材料費高騰と円安が同時に起こった場合に、的確な対応策を持っていません。正しいコスト削減活動には欠かせない、

・価格分析方法

・適正価格で購入する技術

を持っていないのです。現時点では持つべきとの認識すらない。なんといっても、コスト削減は卑しい活動で、既存の秩序を破壊する活動ですからね。しかし、我々は、伏して死を待つことはできませんよね。

私は、購入ボリュームが大きかったり、自社の事業戦略上重要な製品やサービスだったりの供給を受けるサプライヤーの購買プロセスにも立ち入ります。そして一緒にコスト削減活動をします。サプライヤーの社内に立ち入ることなので、しっかりとした信頼関係がないとできません。「コスト削減は利益を生む活動」であることとの考えを、私の発注分以外にもどんどん展開して、サプライヤーに利益を増やして欲しいと考えています。コスト削減活動が、製造業の専売特許であることこそ、全崩壊へとつながる道程にほかならない、そう考えているのです。

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