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海外子会社のバイヤー教育について(牧野直哉)
先日、坂口さんと関西でトークライブ(7月7日トークライブ「これからの夢を語ろう。それは、これからの日本と調達・購買についての夢だ」)を開催しました。トークライブの内容はまた後日お伝えするとして、ご参加の方から「海外の子会社の現地バイヤーのスキルUP、指導のコツはありますか?日本から統制を取りながら現地調達を進めたいのですが・・・」とのご質問を頂きました。会では、残り数分の中で、できるだけポイントをコメントしたつもりです。しかし、これからの日本のバイヤーにとって、とても大きなテーマになる課題なので、今回の増刊号でお伝えします。
「バイヤー教育」とは、これだけで本が何冊も書けてしまうほどに重要かつ壮大なテーマです。そして日本語環境=対象が日本人であっても一筋縄ではいかないテーマです。
私は現職でアジア・太平洋地域の同僚のバイヤーたちと仕事をしています。そんな中で「バイヤーのスキル」というテーマについて感じていることは、次の3点です。
1. 日々の購買業務について、日本のバイヤーとアジア・太平洋地域各国のバイヤーにスキルの差は全くない
2. ただし「サプライヤー選定=ソーシング」については、サプライヤーを評価する基準が日本と海外で根源的に大きく異なる
3. 海外子会社の動きの統制がとれないのは、多くの場合日本側の「こうしてほしい」との意志が伝わっていない/理解されていないことが多い。
まず1について。これは、日々の発注だったり、注文だったり、言い方はいろいろですが、日々の事務処理+αといった業務です。この部分は、ASEAN諸国のような日本より遙かに賃金レベルの低い国でも、日本との、いや日本人との違いはありません。この部分しかやっていないバイヤーは、淘汰されてしまうと繰り返し発言している根拠はここにあります。ただ、今回のご質問では、日本から統制を取りたいとの事なので、日々の業務についての問題ではないと思います。次に進みます。
2について。私も「日本VS全世界」という位に、日本というか、自社内の要求レベルの高さに泣かされています。「なぜ、そこまでの管理が必要なのか」「他の顧客は、そこまで要求してこない」といったことを、何度も海外のサプライヤーから指摘されています。ということは、海外のサプライヤーが普段接している海外のバイヤー、いわゆる現地のバイヤーは、そこまで要求していないわけです。私は、海外子会社のバイヤー教育でおこなうべきは、日本のサプライヤーのあらゆる面での管理レベルの高さではないかと思います。日本のレベルの高い部分を学んだ上で、では海外子会社で現地のサプライヤーに求める管理レベルを日本側/現地側交えて決定することが必要です。ここで、日本側として重要なのは、現地のサプライヤーのレベルを上げるという結論を安易に出さないことです。結果的にサプライヤーの指導・育成をおこなうことになるわけですな。今、海外子会社でサプライヤーの指導・育成をおこなえるだけのノウハウとリソースがあるかどうかを見極める必要があります。いきなり日本レベルと同等のものを求めることは、とても高いハードルです。したがい、海外子会社で求めるサプライヤーでのあらゆる管理レベルを、現在の日本のレベルと同等にまで持っていくことを最終的なゴールとして、現状を見据えた上で今どうするかを日本側と現地側で合意することが必要となるわけです。
そして3について。日本とそれ以外の国を比較して、結果をキーワードとして対比させると、
日本:場当たり
海外:計画的
となります。今回のご質問では「日本側から統制をとりながら」とあります。私の個人的な印象では、一番海外子会社の現地社員から嫌がられる考え方ではないでしょうか。「とりながら」の部分は、場当たりの象徴の様に感じられます。
このケースの「統制」とは、日本と海外子会社をうまくまとめておさめる意味と理解しています。「海外」ですから、日本人同士のいわゆる「同質性」に依存したやり方は通用しません。したがい、どのように統制するのかをルールにして、事前に提示する必要があります。事前に提示するルールは、「日本側の思うとおり」でも良いと思います。その「思うとおり」について、具体的な業務プロセスまで具体性を持って落とし込むことが必要です。その上で、事前に海外子会社のメンバーに提示して合意を取ります。このプロセスが実行されていれば、実は日本側のバイヤーの方が統制を取るのが難しいのではとさえ感じます。たとえば、統制する前の段階として、現地での活動状況を掌握するために提出して貰っている報告書・レポートの類い。レポートの提出期限という納期品質に関していえば、私の経験では最悪なのは日本人です。またその内容も、いわゆる一般的なエクセルやワード、パワーポイントを使いこなすとの点では、日本人のレベルは一般的に低いと思います。ルールを明確にして、事前に提示すれば、計画性を持って対応する素養は持ち合わせているのです。
たとえば、日本側の業務に関連するドキュメント。すべて現地語に翻訳されているでしょうか。この部分は、費用をかけて専門の翻訳業者にお願いしても文書を完備する意味があります。日本では「常識」としていることだって、海外ではわからないケースが多いのです。「そんなもの常識だろ」というよりも、「マニュアルのこの部分を参照して、その通りやってください」という方が、効果もあるし、成果も上がります。以前、やはり同じようなテーマで話をしたときに使用している管理ソフトウェアが異なるからマニュアルが共通化できないって言われたことがあります。ことなるソフトウェアであるから、マニュアルがなくて良いということではありませんね。もしソフトウェアの違いが、統制を阻害するようであれば、本末転倒の典型です。
「海外子会社を統制」とは、自分たち日本側でも同じルールで統制され、成果を出しているという実績がなければ、海外ではなおさら効果を生みません。その場面毎で言ったことをやるというのは、もはやマネジメントではありませんね。海外子会社を統制するとは、自分たちを見直す絶好の機会でもあります。私は、たまたま現地で雇用した人間の持っているスキルによって、日本側のプロセスを見直した経験もあります。せっかくの海外リソースを使い倒すためには、確固たる「統制」の方法をルールとして整備し、現地社員に理解してもらうことが必要なのです。