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ショールーミング化の憂鬱(坂口孝則)
平日の家電量販店。スマホコーナー以外は店員の数のほうがお客より多いことがある。先日、テレビを見ていると店員から話しかけられた。説明を聞いたあと、「これ価格ドットコムで検索したほうが安いですか」と訊ねたら露骨にイヤな顔をされた。ごめん。
米国ではベストバイ等が同様の悩みを抱えている。お客は店舗で現物を見るだけで買わない。帰宅してアマゾンで購入したほうが安いし、持ち運びの手間も軽減するからだ。米国では「ショールーミング現象」と呼ばれる。量販店はネット販売業者のショールームになった。リアル店舗は壮大なボランティアと化した。米国の調査によるとネットで購入する半数が、一度はリアル店で品定めしているという。
これは家電量販店だけではない。アパレルショップも同様に、試着はリアル店で、購入はネットで、という流れが加速している。なるほど、経済合理的に考えれば、それは消費者にとって得策にちがいない。「その服はお客さんに似合いますよ」とかお決まりフレーズしかいえず、「その服は私も持っているんですが、使い勝手いいですよ」とか何でも持っているとおっしゃる嘘つき店員ばかりの店は消え去る運命にあるだろう。
これまで何度もリアル店舗の利点が議論されたものの、最終的にそれは手に取ることができる点にあった。丸善とジュンク堂では、本をネットで注文後、書店での試し読みを可能とした。気に入らなければ購入する必要はないという。ただし、アマゾンで「なか見!検索」がある以上、どれだけ成功するかはわからない。他の根本的対抗策はないか。
やや抽象的にいえば、これからの小売業は、お客の購入商品を提案することが必須だろう。そのヒントとなるのが、やはりネット上にある。サイト「Travel Muse」をご存知だろうか。総合旅行サイトのなかで、アイディアが頭一つ抜けている。だいたいの予算と期間を入力したあとに、旅行中に感じたい気持ちを選び(ロマンチックとか贅沢とか)、フライト希望時間を選択すれば、合致する旅程を提案してくれる。しかもかなり魅力的なものばかりだ。他の旅行サイトは、お客が目的地を決めたあとに、ホテルや交通費の値下げ合戦に夢中だ。しかし、注目すべきは、お客が購入商品を決定するまでにあった。お客がほしいものをお客に教えてあげれば、値下げ競争に巻き込まれないわけだ。
テレビを買いにきたお客がほんとうに欲しているものはテレビだろうか。家族団らんの時間がほしければ、もしかすると答えはホームシアターかもしれない。リアル書店はお客が潜在的に読みたい本を推薦しているか。そのような視点抜きに、小売店復活は語れないだろう。価格競争に巻き込まれるのは、商品提案力などの価値を伝えていないからだ。
「むかし『ほしいものが、ほしいわ。』ってコピーがあっただろ」
「西武百貨店のやつか?」「そう。でも結局、カネを度外視できないわけだよ」
「どこにでも売っているものならネットで最安値を探そうとする、賢い消費者の時代になったわけだな」
「どうせなら『安いものが、ほしいわ。』ってことさ」
「売り手も価格だけで勝負なんて安直すぎるよな」
「でも、家電量販店は昔から言ってたじゃないか」
「なんと?」
「『易さ』で勝負って」
量販店各社の検討を祈る。