コンフリクト・マネジメントについて(坂口孝則)

コンフリクト・マネジメントについて(坂口孝則)

コンフリクトとは、衝突、葛藤、対立などを意味します。これまで日本の企業においては戦略的にコンフリクトを捉えているケースは少なく、“コンフリクト=悪”として、回避しよう、あってもないように振る舞おうという傾向でした。一方で、このコンフリクトを戦略的に活用して組織を活性化し、成長の可能性を広げようというのがコンフリクトマネジメントの考え方です。

ビジネス環境が高度化・複雑化する中でコンフリクトの発生する場面が増える傾向にあります。今後の組織や個人にとってこうしたコンフリクトに対処する術(競争・協調・受容・妥協・回避)を身につけることがいっそう重要になってきます。また、コンフリクトマネジメントは、モチベーション、チームビルディング、メンタルヘルス、ファシリテーションなど様々な組織経営分野にも影響を及ぼします。

そこで、「モチベーションで仕事はできない」という奇書を発行した私(坂口)が、コンフリクト・マネジメントの取材に応えました。

インタビュアー:今回は「モチベーションで仕事はできない」を上梓された坂口孝則さんに、コンフリクトとモチベーション、コンフリクトと生産性との関係等についてお話を伺います。

コンフリクトという表現は、ビジネス書や人事の現場などで使われることが増えてきていますが、一般的に衝突や葛藤、対立と訳されるこの言葉を、坂口さんはどうとらえていらっしゃいますか。

◆コンフリクトの3つの認識

坂口:コンフリクトというものが最も当てはまるのは、大きく3つの場合があります。1つ目は「定量評価軸の未設定」という状況です。

コンフリクトが起きる場合を突き詰めて考えると、各自の言っていることが、定量的なデータに裏付けされていない時です。例えば、ある会社で複数の営業戦略があって、予算を奪い合っているとします。これは、コンフリクトが生まれているように見えますが、実はそれぞれの施策の費用対効果や、メリット・デメリットを、定量的に語ることができていないために、単にそう見えるだけということです。

定量的評価がきちんと導入されれば、コンフリクトという表現ではなく、単にファシリテーションや発言ルールと言ったほうが近いのではないかと思います。

例えば、お客さんの最大のニーズについて、1人はコスト削減だ、別の人は品質だと言っている。でも、それはお客さんに聞けばいい話であって、どの側面が一番定量的な効果が得られるか把握できていないにすぎないのです。

2つ目に、日本企業でコンフリクトが多く起きるのは、責任回避からだと思います。1つ目の理由に比べれば比率は高くないものの、設計部門と調達部門、営業とマーケティングなど、部門同士でぶつかる時、その原因のほとんどは責任回避だと思いますね。

3番目は、そもそも採用のミスマッチによって、役に例えば立たない人材が組織に入ってきているというのが、僕の実感です。

本当は、コンフリクトを使って強い組織づくりをしなければいけないというのが、今回のインタビューの趣旨に近いと思うのですが、実態としては積極的な意味には使えないコンフリクトが多いのです。

インタビュアー:要するに、定量的な評価基準がないから、議論しても一向に先が見えない。なぜそういうことになるかというと、それぞれの部門が責任を持たない状態で話をしてしまうからということですね。

坂口:そうです。日本で新しいことをした時に批判されるのは、前例を踏襲しなかった場合です。先進的と言われるベンチャー企業でも、基本的には社長以外は保守的です。そういうところが責任回避につながっているのではないかと思っています。

◆コンフリクトを生んでしまう人材

インタビュアー:そのような状況を生み出しているのはそもそも人材であるということですね。採用の段階で、責任回避をしがちで評価軸の設定ができない人を採ってしまっているということになりますか。

坂口:もしかしたら、企業によってはその要因が一番大きいかもしれませんね。「なぜ、そもそもこんな人がいるんだろう」と感じられるような人材が、結構いるのではないかと思います。

もちろん、単にずれている人や、わざとコンフリクトを誘発するようなことを言う人もいます。しかしもっと割合として大きいのは、本来はその会社の理念に共鳴して入ってきたはずなのに、その理念を具現化することを面倒がることによってコンフリクトを引き起こしてしまう人だと思います。

インタビュアー:それも採用のミスマッチといえるのかもしれませんね。会社のことを就活生に説明する時に、確実でないビジョンなどは省いてしまって、作っている物だけにフィーチャーしてしまうことがあります。そのため、結局学生はブランドや物にしか目が行かなくなってしまうことがありますね。

坂口:われわれの会社は、調達や購買を通じて企業を変えていこうという理念を持っていて、そのためのセミナーも行っています。ところが、営業系のセミナーのほうが、調達・購買のセミナーより単価が高いのです。そうなると、営業系のセミナーだけやればいいという意見も社内で出てきます。でも、理念や軸足をずらして、儲かることだけをやるのは、会社としては違うと私は思っています。

会社の理念と個人の理念が完全に合致するのは難しいかもしれません。しかし社員は、少なくとも入社時の面接では「御社の理念に賛成共鳴します」と言って入ったわけです。その理念は守る必要があると思います。

◆単純な対立は「価値観の多様性」ではない

インタビュアー:企業の中でコンフリクトが起きても、あくまで立ち返るのはその会社の企業理念であり、そこを踏み外したら議論にならないということですね。

坂口:そうです。立ち返るところがないと、ふらふらしてしまいますし、ベクトルが合っていないとさまざまなベクトルが絡み合うわけで、かみ合わない議論になりがちですから。

インタビュアー:それを価値観の多様性とは言いませんか。

坂口:おそらく言いません。私は以前、自動車メーカーに勤めていたのですが、同社にはフィロソフィーというものがあります。各社そういうものを持っていると思いますが、それを具現化するための手法は、いろいろな議論があっていいのです。ただ、理念や目指すべきところを踏み外した人を会社に置くべきではないというのは、冷たいようですが当たり前のことだと思います。

インタビュアー:日本では、企業理念やビジョンを分かりやすい形で伝えることが苦手な企業が多いと思いますが、この辺りは影響していますか。

坂口:理念の下に事業を絞ってきた会社のほうが、多角化経営をした会社よりも、長期的に見るとはるかに利益率が高いという研究結果があります。

しかし日本は歴史上、財閥系の企業が多角化経営をしてきたことによって、1つの理念でくくりきれないような企業体が存在してきました。それが現在も影響しているのではないかと思います。

◆企業理念を理解せずに入ってくる学生

坂口:もう1つ、近年の一番大きい理由は、人事採用担当者が、企業理念を腹に落ちるところまで咀嚼(そしゃく)しきれていないからだと思います。

優秀な学生を採ることが優先で、理念に共鳴する学生を採るのは、第一目的にはなっていない。そこに原因があるのかもしれません。

学生側にも問題があるかもしれません。たぶん、学生も自らのよって立つところがないのではないかと思います。自分自身が企業活動等を通じて実現すべき理念という、文化的なバックグラウンドが存在しないのでしょう。

インタビュアー:自分にとって働くということはどういうことなのか。お金を稼ぐことや自己実現など、いろいろな価値観がありますが、それを考えることが、そもそも教育の現場でなされていないのですね。

坂口:そうです。この前、大学の先生からうかがったのですが、大学に入ると最初に受講するのは就職セミナーであって、講義のシラバスの読み方などではないというのです。しかもその就職セミナーでは、3年後に自己PRや志望動機を業界ごとに書き分けられるような訓練をしなさい、ということを教えているのです。大学自体が就職セミナー化しているということを強く感じました。

インタビュアー:学問を究めるという本来の大学のあり方からずれてしまっているわけですね。大学の就職課は、就職率を上げたいので、いろいろな会社の説明会に行きなさいと言う。いろいろな会社を見て、一番理念に合うところを選べるようにという意味で言っている人もいるかもしれませんが、単純にたくさんエントリーシートを書くようにと言っている人もいて、学生もそう捉えてしまっていますね。

◆具体的な基準がないからコンフリクトが起きる

インタビュアー:ちょっと話を戻します。先ほど、コンフリクトについて評価軸の未確定、責任回避の問題、そもそもそういったコンフリクトを発生させているような採用段階でのミスマッチというお話がありました。では、企業などの組織で、なぜコンフリクトはそういうも発生してしまうのでしょうか。

坂口:それは、行動基準をKPI(キー・パフォーマンス・インディケーター)で設定していないからだと思います。

例えば、僕が一緒に仕事をしていたある会社では、年間1億円売るという計画を立てました。そして、1億円を売るためには1カ月で840万円売らなければいけないと、ブレイクダウンしました。

このくらいやっている会社は、結構あります。ただ、この会社がすごいのは、840万円売るためには、客単価何万円の商品を何人に売らなければいけないか、そのためには見積書を何枚出さなければいけないか、そのためには何人のお客さんに会わないといけないか、そのためにはいくつ電話でアポイントを取らなくてはいけないか、そのためには営業マンは1日に何本の電話をかけなければいけないか、というところまで、全部行動基準としてKPIに落とし込んでいるのです。

具体的な行動基準に落とし込まないと、目標を達成できない時に、思いつきのような意見でコンフリクトが起きたり、「あいつがやってないから、売れてないんだ」と周囲を攻撃したりして、ぐちゃぐちゃになってしまいます。しかし、行動基準がKPIならば、どのプロセスでうまくいかなかったかが明確になります。明確になれば、そこにフォーカスした上で、改善案を導くことができるのです。

他にも「週に1回お客さんに会う」というKPIを設定したところ、売上が安定した会社もありました。設定した時は「1回会っても意味がない」と反対する人もいましたが、続けることによって、相関関係を見せていきました。やっぱり会えば会うほど、発注に結びつく可能性が相関的にありますから。

◆コンフリクトと生産性

インタビュアー:逆に言うと、ほとんどの組織でそれができていないということでしょうが、なぜでしょうか。

坂口:日本の生産現場では、この通りにやれば0.1秒でも早く、あるいは0.1円でも安くできあがるという作業標準書というものが、世界で一番よくできています。それに対してホワイトカラーの作業標準書が、最も存在しないのも日本です。

アメリカの場合は、どこまでが責任権限で、どこまでをどういう手段でやらなければいけないと、細分化して保有しているところがあります。

その理由はおそらく、向こうではむしろアッパークラスが自らの価値を表現する意味で、自分の業務を分けて、「ここまでは自分ができますよ」というような価値体系を作り上げてきた側面が大きいのではないかと思います。

インタビュアー:製造現場では、ひとつの製品を作るにあたって、役割がある程度決まっていて、基本的には曖昧な部分がありません。でも、欧米に比べると日本はジョブディスクリプションがしっかりしていないので、ホワイトカラーの職場にはどうしても曖昧な部分が出てきます。手を出して失敗すると損をするから、みんな責任回避をして、自分の仕事ではないと言って、その曖昧なところがロスになって、生産性の低下につながっているのかなと思いますが。

坂口:それは、自分たちの業務はこうだという、プロフェッショナルの自覚の裏返しの可能性もありますけれど。ただ、そこから類推されるようなもう一歩のところが、想像できないということですよね。

また、ブルーカラーにくらべて厳しい定量的な作業標準がないのは、頭脳労働やすり合わせ業務が、日本では過大評価されている経緯もありますね。

インタビュアー:個人ではジョブディスクリプションができているのに、組織における分担が追いついていない。そのミスマッチが結果的にコンフリクトを起こしているのかなというのはあるのですね。

◆社会におけるいろいろなコンフリクト

インタビュアー:企業というところから少し広げて見てみると、他にもいろいろなコンフリクトがあると思います。例えば、世代間では年金や医療の格差。あるいは人種、性別、地域。そのような中で注目しているコンフリクトがあれば教えていただけますか。

坂口:ダニエル・ピンクの著書『フリーエージェント社会の到来』には、アメリカには3300万人くらいのフリーエージェントがいるという話がありましたが、私は当時、日本はそうならないと思っていました。ですがその後、実際には、日本でも地殻変動が進んでいると思います。

会社員という働き方は何と言ってもやっぱり世の中のメインだろうと思っていたのですが、考えてみれば、サラリーマンの歴史は産業革命以降のわずか200年しかないわけです。

ところが今、何百万人という人たちがインディペンデント・コントラクターや独立起業の道を選ばれています。私も中小企業診断士や社会保険労務士のセミナーでコンサルタントとして話をすることがあって、考えが変わってきました。そういう場所で出会う人たちと、大企業的な考えに染まっている人たちの、労働観のコンフリクトは大きくなりつつあると思います。

インタビュアー:インディペンデント、インディーズの方と、いわゆる寄らば大樹、大企業組織の中でやっている人のそもそもの勤労観、職業観、労働観というのは大きく違う。ややもすると、そこはコンフリクトを生じてしまっていると。

坂口:これは、有名な人事コンサルタントの方が冗談でおっしゃっていたのですけれど、日本の会社員で本当に「合理的経済人」がいたとしたら、入社するまでがんばって、あとは何も働かないだろうと。それはもちろんジョークですが、固定の給料をもらえるサラリーマンと、売上・粗利・コストなどの意識を常に持たざるをえない士業などの人たちでは、相容れないと表現できるほど、価値観が全く違ってきますね。

額に汗して働くことの重要性だけを強調する人がいますが、そこはバランスが必要だと思います。第一線で働くことはもちろん重要です。でも実際にはそれに指示を与える人も必要だし、もっと上から彼らを操る…というと変ですが、そういう役割の人もいなければいけないわけです。

マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』などでは、市場を規制する政府と、神から意思を受けた市場が対立しながら成長していくように描かれています。ところが、日本の近代は、富国強兵の名のもとに国と市場が一緒になって成長してきたため、政府や国に対して無批判に育ってきてしまったという点があると思います。

◆モチベーションで仕事はできない

インタビュアー:今回、坂口さんが書かれた『モチベーションで仕事はできない』という本の中では、巷で語られているモチベーションとは違う新しい切り口で、持論を展開されていますね。ぜひご紹介いただきたいと思います。

坂口:昨今、仕事ができるかどうかはモチベーションに左右されると言われます。しかし、モチベーションは上下しますので、それに影響されると仕事ができなくなることがあります。

その現状に対して僕が提言しているのは、モチベーションはもちろん重要かもしれませんけれど、モチベーションがなくても一定の成果を挙げられるような工夫をしたほうがいいということです。

具体的には、できるだけ全てを技術に落としこみなさいということです。モチベーションがないから仕事ができないというのは、仕事ができない人の言い訳であって、自分をだましながらでも仕事をできるような技術に落としこむ。そして定量的に自分の仕事を行うために、この時間で何をしなければいけないかを考え、それをするための強制的な仕掛けを取りなさいということを書いています。

また、モチベーションというものが心に対して作用するのに対して、むしろ体にアプローチしてくださいと書いています。例えば、深呼吸の方法もそうですし、とりあえず笑うということ、資料を早く作るのにとりあえず手だけでもいいから動かす、ということも書いています。体を動かすことによって、自分を機械化するという表現をしているのです。

そして最後に、一番僕が伝えたかったメッセージは、そうやって、嫌でもいいから仕事をしていると、その仕事が好きだったというふうに思い込むことができるようになる。実は、この思い込むというプロセスこそが、全ての成功者がたどってきた道なのだ、ということなのです。

その仕事がもともと好きで成功した人も、1%程度はいるでしょう。でも、普通の人はその他の99%ですから、嫌々だけどやっているうちに、人から認められてくるし、自分はもしかしたら、もともとこれがやりたかったのではないかなと誤解してしまうことができるようになる。そのほうが幸せに生きられますよという結論です。

◆本を読んでも月曜には元に戻ってしまう

インタビュアー:ダニエル・ピンクのモチベーション3.0では内発的動機付けと言っていましたが、今回、坂口さんの話だと、いわばモチベーション4.0で、内発的動機付けすら無意味だということですね。

坂口:もっと言うと、マイナス1だと思っています。僕が言っていることは、空海仏教の思想に近いかもしれません。空海は仏教では、「現世は苦しいが、いかにして苦しいということを悟らず生きられるかが大切だ、ただし、死ぬ時にはこの生を肯定できるような生き方を目指そう」と言っています。日本で言うとマイナス1というか、仏教思想に戻っているのではないかな、と思っています。

インタビュアー:モチベーションというのは強迫観念であって、モチベーションの本を何冊も買って読んだところで、月曜日にはまた元に戻っていると。

坂口:僕も、こういう本を出す以上は、モチベーションと名前が付く講演は相当聞いていますし、自己啓発CDなども、僕以上に買っている人はいないんじゃないかというぐらいに買っています。でも、特に効き目は感じませんね。

◆うつ状態になったら

インタビュアー:とはいえ、なかなか仕事に対してやりがいが見いだせない、コンフリクトをうまくマネジメントできな中で、30代を中心にメンタルイルネスになってしまう若者が多いのですが、そういう人たちにメッセージはありますか。

坂口:病気の場合と、単なるうつ状態は違うと思います。本当に病気の場合はモチベーション云々ではなく、医者へ行きましょうということになります。

一方、うつ状態の時。まず、本とは離れた内容ですが、友達を1人持つということではないかと思います。単に悩みを聞いてくれるだけの関係ではなく、批判的かつ客観的事実に基づいて、話を聞いてくれる友達を1人でいいから持つというのが、一番重要でないかと思います。

うつ状態というのは、事実はたいしたことではないのに、それを過大に感じてしまっていることがあります。そこを冷静に意見してくれる友達です。

また、本の内容にしたがって言うと、うつ状態の場合というのは、体に左右されることが多いと思うのです。体が重い、朝起きられない、食事が食べられない等、ストレスを抱えているのが、うつ状態です。ですから例えば、呼吸法もそうですし、休みの時でも昼間からパジャマは着ないとか、シャワーを浴びるとか、そういった具体的に体を変えていくということが絶対に必要だと思います。

インタビュアー:メンタルというけれど、それはフィジカルと連動しているので、体を動かす、汗をかくという、生活習慣のようなことが大事だということですね。

坂口:ちなみに私は、週に1回呼吸法のトレーニングに行っています。これはとてもきつくて、悩んでいる暇がありません。ヨガなどもおそらく同じでしょうが、身体を変えることが一番ではないかと思います。

最後の3つ目は、必ずしもお勧めしませんが、それが客観的に見て本当に会社や組織の問題、例えばうつ病患者や退職者が続出しているような会社や組織であれば、早くそこを離れたほうがいいと思います。それが、社会に対する自分の価値を最大化するためにも、一番優れている方法だと思います。

◆ブラック企業は認識の違いから

インタビュアー:そういう、いわゆるブラック企業というものは、あると思われますか。

坂口:僕がお付き合いのある取引先で、インターネットでブラック企業と書き立てられている会社があります。人間は自分を肯定したいので、入ったばかりの時はその会社を肯定しています。たくさん仕事があるし、先輩たちが仕事熱心だと。ところが、退職して外部の人間になったとたん、その人にとってあの会社はブラック企業だったという認識になってしまうのです。

僕がかつていた会社でも、2日徹夜させられたというような昔話を語る人もいます。けれども、その人たちはいい思い出として語っているわけです。情報ツールの伝達によって、ブラック企業というイメージが、必要以上に強調されているところがあるのではないかなと思います。

今働いている従業員の中でも、人によって感じ方は違うかもしれません。例えば、アップル社から生産を受注している台湾のフォックスコン社では、寮の8人部屋など劣悪な状況が報道されたりもしましたが、別のインタビューでは、いくらでも残業させてくれるから、お金を貯められていい会社だという意見も従業員から出ていました。

また、ブラック企業として一番名高いあるソフトウエア会社は、顧客からの評価はソフトウエア会社の中で一番いいのです。安くて早い。ブラック企業かどうかというのは、どこから見るかによって、だいぶ違うのでしょうね。

◆人事担当へのメッセージ

インタビュアー:今日はコンフリクトというお話を中心に、途中で話題を広げていろいろなことをお聞きしてきました。最後に人事担当の皆さんへメッセージをお願いします。

坂口:メッセージというほど偉そうなことは言えないのですけれど、コンサルの立場として企業に入ると、企業内部の言い争いを聞かされることがよくあるのです。そのせいで1回分コンサルの回数が増えるなら、それは企業にとってコストの増大になるわけです。

コンフリクトをなくすこと、減らすことが、中長期的にはスムーズな会社経営につながって、金銭的、実利的なメリットをもたらすということを感じています。

会社のルールを守らずコンフリクトを起こす社員、またそもそも会社の基本理念すら分からずコンフリクトを起こす社員もいます。コンフリクトを生じさせないためには、根源的にはやはり人材に行き着くと思います。

ある面接官に聞いて面白いと思ったのが、転職者を面接する時に、前の会社の企業理念を答えられない人は採用しないということでした。理念の内容はともかく、理念自体に全く意識がなかったような人材は、採用してもすぐ辞めるそうです。

今は学生を採りやすいかもしれませんが、人事担当者の方が、もっと自社の理念や使命を採用の軸として持った上で、優秀な人を採用したほうが、中長期的には実利的なメリットがあると思います。

インタビュアー:生産性が上がる意味でのコンフリクトも存在するわけですが、単純にコストにしかならない不毛なコンフリクトが多すぎると。人材の調達のところからもう1回、人事担当の皆さんには戦略を練り直してもらうということが必要なのですね。

(「JSHRM Inshghts」より)

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