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来年に向けて~これからバイヤー元年が始まる(1)
「なんでこんなことをやんなきゃいけないんだ!!」
ゲームをやったことがある。
サプライヤーからいかに高い見積もりを出させるか、というゲームだ。
そして、そのあとにバイヤーはその見積もりをベースに「下げた」コストをサプライヤーから再見積もりしてもらう。
バイヤーは、それを「自分の成果だ」といって、コストダウン実績に入れる。
そんなゲームをやったことがある。
ときにそれは「購買査定よりいかに安く買ったか」という表現に変えられ、ありえもしないコストをベースに原価低減額を算出するゲームにもなった。
そして、そのゲームの勝者は、毎年の優秀賞として祭り上げられる。私はそういうところを何度も見てきた。
ただ、そのゲームのおかしさを新人であれば新人であるほど気付くことになる。
すると、新人は常識を持って、こういうことになる。
「なんで俺はこういうところにいなきゃいけないんだ!!」
・・・・
あのコストダウン実績を報告したときの優越感にひたってしまう人がいる。
サプライヤーからちやほやされて当然と思う人も出てくるだろう。「営業マンがバイヤーに話す言葉づかい」と「バイヤーが営業マンに話す言葉づかい」がこれほどまでに違うのか、と気付いた新人のころの感覚も忘れ始める。
「そんなに1円安く買ったって、デタラメな資料を作っても、ユーザーには意味がないじゃないか」と思った。そんなことよりも、どんなに一見高く見えてもリーズナブルに買えていれば、それこそユーザーは喜ぶじゃないか、と。
以前の私ならそう信じていたし、今だってそうだ。
あのゲームの中で必死に努力しているバイヤーを見た後でも、いや見た後だからこそそう思う。
ただ、このゲームに勝たなければならなかったのだ。それでなければ、一人前として認められることすらない。
そのゲームで勝つことすら出来ないやつには、今後のもっと自由な仕事は与えられることはない。
確かに割り切ってやってみると確かに面白い。それなりに注目されたりもする。
だけど、それは絶対にどこか違う。そういう境界線のところで揺れていた自分を思い出さずにはおれない。
・・・・
私は購買部に配属当時あせっていた。ものすごくあせっていた。
「あの人の仕事を引き継ぐのだから、絶対に今期の原価低減額は減らさないように」と何度も言われた。
ただし、考えれば分かるのだが、大学を出たてのガキに業務を完璧にこなすことなどできるはずもない。
サプライヤーとの信頼関係がたったの半年で築き上げることができれば、それこそ前任者は何をやっていたのかと思ってしまう。
そうする間に、同時期に入社した誰々は仕事を完全に任され海外に出張に行くことになった、などという噂が流れてくる。
かたや日々追われる納期調整業務と不条理な要求。
悩み、仕事のことばかりを日々考えることが多くなった。当然眠ることができなくなった。
仕事なんて、ある一定時期は集中してしまったり、上手くいかないことなんて多々あるのだが、そういうことを納得するほど私には余裕がなかった。
意味不明の内容で、意味不明の叱責を繰り返す設計者。元々無理な工期でスタートし、こちらに責任を押し付けてくる生産管理のスタッフたち。そして、上司からはよく分からない指示ばかりがふってくる。
感情の発露は激しくなり、酒を飲む回数が増え、怒りっぽくなる。何かに意味もなく激しくぶつかることも多くなった。
自分よりも若いバイヤーが、働く意欲をなくしたり、職場に来なくなったり、あるいは反動としてサプライヤーとの飲食を繰り返す姿を見ては、私のことのようによく分かる。
不条理感。脱力感。おびえ。迷い。悲しみ。そして、逃げ出したいという感情。
私はこういう感情を持つ人間がバカだ、といっているわけでも、当然だ、といっているわけでもない。そういうことが分かる、といっているだけだ。