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自分の財布、他人の財布(1)
「ラブホテル買いませんか?」
半導体や樹脂成型品やプレス部品しか買ったことのないバイヤーはその提案に驚いた。
「いや、正確にはアミューズメントホテルなんです」とその営業ウーマンは語った。
絶対にいいと思う、と語ったその顔には少しの陰りもなかった。しかもかなりいい案件なのです、とも。
「これまで誰も目を付けていなかったので、今になってその評判が沸騰している。最後の宝の山はそこにある」ということだった。
それにしてもアミューズメントホテルとは?そのバイヤーは思った。
しかし、その営業ウーマンはバイヤーなんだからそういう目利きはあるでしょう、といわんばかりの表情で迫ってくる。
「今まで買って、失敗した人はいないんです」という発言の前に、それを正確に評価できないバイヤーがそこにはいた。
もちろん、今まで買っている種類のものと違いすぎるということはあった。
それに加えて、「バイヤーというものの定義が狭いようで、あまりに広い意味を包含している」ということ、そしてその「定義の広さ」ゆえに「業界間でモノを買うということは本質的に異なるか」に思いを巡らせていたからだ。
繰り返し、その営業ウーマンは語った。
「ラブホテル買いませんか?」
・・・・
その営業ウーマンから売り込みを受けていたバイヤーは私だった。
私がバイヤーであることを知ったその女性は金融製品を売る営業ウーマンだったのだ。
聞くところによると、「アミューズメントホテル」は、通常のホテルと比べて異常に回転率がよい。
しかも、ほとんどお客あたりのコストがかかることはない。かかるとすれば、それは清掃代と簡単な飲み物くらいだ。派手な接客は必要がなく、コトが済めばお客はすぐに帰っていく。
その女性は、ラブホテル買収ファンドの営業を私に対して行っていたのだった。
一口50万円であり、決して安くはなかったが、収益率を聞いて驚いた。
通常のホテルを尻目に、 「アミューズメントホテル」は粗利が45%を超えるのだという。
こういう話を聞くと日本製造業のあまりに低い利益率に、途方もない無力感を感じてしまう。
いや、そういうことを言いたいわけではない。
話を戻そう。
現在多くの人が資産形成に興味を持っている。ゼロ金利が春先以降も続くかどうかは別途議論してもらえればいいとして、誰であれ自分の資産に直接関係するものであれば、査定に敏感にならざるをえない。
どういう金融資産を形成すべきか、どういうポートフォリオを組むべきか、どのように預貯金を配分すべきか、ということに関しては自分への影響がダイレクトすぎるため、いやがおうにも自分が購入する対象に厳しい目を持ってあたってしまう。
考えるに、このことは職業としてバイヤーをやっている人たちにも応用できる考え方ではないか。
結論的にいうならば、自分の購入品から生じる成果が自分に直接的であるほど人間は成長する。