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失敗、挫折、焦燥感(1)
「こんなのどこに置くんだ!!」
いつもの憂鬱な月曜日。バイヤーはいつもの通りパソコンの電源を入れた。
すると、バイヤーをもっと憂鬱にする電話がかかってきた。
その電話でバイヤーは青ざめた。
話の主は、受け入れ検査の人間からだった。
受け入れ作業者は、そのバイヤーにある製品が千個も納入されたことを告げた。
製品は、一つ5,000円のオプト部品だった。
そのバイヤーは「その千個はちょっと前に納入されたはずじゃなかったのですか?」と訊いてみた。
「いや、その千個じゃない」
「しかし、その多量の個数は発注した覚えがありません」とバイヤーは言ったあとに、「まさか・・・」と冷や汗が出てきたのを感じた。
「ちょっと調べてみますので」とバイヤーは言い返すのがせいぜいだった。
「調べるのはいいけれど、どうすんだ」と受け入れ作業者は冷たく叫ぶのだった。
「こんなの使用先もないぞ!!」
「ちょっと、待ってくださいって」
「だからどうすんだよ!こんなの、どこに置くんだ!!」
・・・・
ERPパッケージソフトで構築された発注システムという「便利なツール」がある、という。
ERPとはEnterprise Resource Planningの略で、企業全体を経営資源の有効活用の観点から統合的に管理するものだと言われる。そして、その単語は多くの場合、ソフトとセットになっている。
私の会社では、ある会社のパッケージソフトを使うことになった。
「手書きの発注書からおさらばできる。これからは、システムで発注が可能だ。空いた時間はもっと有効に使えるだろう」と導入担当者は語っていた。
これを使うと、発注が簡略化でき、しかもそれが社内の生産計画とリンクしているということで、導入前は非常に期待感をもって迎えられた。
中長期の生産計画を把握し、在庫量から調べ、その製品ロットに応じた発注が随時でる仕組みだった。
一度価格とロットを決めてしまえば、あとは手間はかからない。非常に業務効率化を狙ったものだった。
しかし、導入されると莫大な登録時間が要された。
半導体部品など、基盤に載るような部品はただでさえ多量な数がある。しかも、以前登録された海のものとも山のものとも分からない部品群。
ロットを登録すると、「これはリール品だからこの単位では購入できない」とメーカーから指摘されたり、「1個単位で購入するのはかまわないが、それによって搬送が煩雑になるがいいのか」とかいった意見が次々に出されたのだ。
おまけに購買部門の中からも、「これじゃぁ最初の紙の伝票のころがよかったな」という当然の意見が出てきたのだった。
・・・・
さらにこういうことがあった。
最小ロットは10個なのだが、1000個まとめ発注での交渉を実施した部品があった。
大型案件の発注がかかり、1000個の部品が必要になったのだ。
しかし、ERPでは10個単位での発注が工程に合わせて出るだけで、1000個同時に発注がかかることはできないという。
そこでバイヤーは、その部品だけ最小ロットを1000個にデータベースを変更し、発注に備えた。
発注がかかると確かに1000個発注書が飛び、大幅なコストダウンが可能になった。商社経由で購入していたのだが、多額の受注であり、バイヤーも大きなコストダウン成果を得ることができた。
もちろん、それで終了する予定だった。
しかし、バイヤーはそのすぐあとに「7個だけ必要」な工程があるとまでは知らなかった。
いや、正確には知る必要もなかったのである。そういう処理は自動的に実施してくれるはずだったからだ。
7個しか必要でないはずのその部品が1000個発注されることになってしまった。
そして、7個しか必要でないはずの品物の納入が1000個でやってきたのだ。
そこからは前述の通りだ。
その後、受け入れ作業者はバイヤーに向かって叫んだのだった。
「だからどうすんだよ!こんなの、どこに置くんだ!!」