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バイヤーという戦場にかける恥(2)
「ところで、今回のアノ製品、どうでしょうかねぇ」か、と私は思った。
このような発言をするとき営業マンの心境とはどのようなものだろうか。
まさにそれは文学というべきものであるが、まさか飲みに連れ回したあとに「ありゃ全然ダメですよ」などという言葉を期待しているのだろうか。
それはまず無い。
多くの場合、問題があったとしても「いやぁ、ちょっと問題があってアレなんですけれど、そこは御社の改善に期待するところでして・・・」などといって言葉を濁すのが儀礼とされている。
そのときも、ほぼ同じ内容を申し上げた。
よくわからないことは「アレ」で表現するという日本人の特質だ。
冷静に考えれば、問題の先送りでしかないのだが、結局「アレ」で表現すればよいのだった。
・・・・
その後日。結局はその工場のその製品は採用されることはなかった。品質とコストが問題だった。
そのとき私は一般的な説明と、採用に至らなかった理由をできるだけ定量的に述べた。
「うーん。そうですか。分かりました。でも、あきらめるわけではありません。今後ともよろしくお願いいたします」と営業マンは語った。
しかし、そう考えるとあの接待は一体何だったのだろうか。
営業マンはこのような結果になると分かっても、あの接待を行っただろうか。もちろん結果が不採用であればそのような接待はしなかっただろう。そう言わねばならない。
しかし、実際はそのような結果になったとしても、そのような接待は行われていたはずだ。それは日本人の慣例として存在するからだ。
私は一度東京駅の書店の前の喫茶店で、若いバイヤーが初老の営業マンと会話しているのを目撃したことがある。
おそらく飲みに行った帰りで、新幹線待ちのようであった。
その初老の営業マンは、「これ、つまんないもんだけどねぇ」とプレゼントをバイヤーの目の前に渡した後に、こう言った。
「私の地元のねぇ、特産品なんだけどさ。口に合うかわかんないけれど、一度食べてみてくださいよ」。その後に、畳み掛けるのだ。「ところで、この前お持ちした商品ってどうかねぇ」。
するとバイヤーはこう言った。「あれだけどさぁ。やっぱりああいう領域に、オタクは手を出してほしくないわけよ。ああいう分野じゃ活躍できないんじゃないかなぁ。なんとか、採用してやろうとしたんだけどさぁ。どうかなって」。
繰り返すが、バイヤーは若く、営業マンは初老と思しき人物だった。
おそらく、このバイヤーは典型的な上下関係の中で生きてきた人間だろうが、こういう人が突然上の立場になったときに、取る厚かましい態度といえば見るのも無残なくらいだ。
「買う側って、接待とか要求したり、売り側に強気になってすごいんでしょう」と利害関係のない人たちから質問を受けることがあるが、こういう種類のバイヤーを見てしまえば当然そのような疑問が思い浮かぶ。
ただ、自分の言説を客観的に評価できない人間は傍目からは莫迦(ばか)に見える。