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転職とバイヤーと(2)
そのバイヤーは私だった。
入社2年目の秋にしては、いささか刺激が強かった。
わけのわからない購買という業務に翻弄されていた、あまりに若いバイヤーが出会ったちょっとした「事件」だった。
この紳士との出会いは何だったか--と思い出してみた。
私は購買の仕事をしているせいか、色んな人と出会っていた。
そう、最初はこの人から何かの売り込みを受けて、それを購入したのだった。その後に色々なことを話した。
アカウンティングから国際会計、コーポレントガバナンス、アジア商圏から日本経済、世界経済、英語・・・etc。
この紳士の次から次へと繰り出される単語について行っては自分の意見を投げ返す---この人との会話はいつも2時間にわたった。
そして、さらにあと、私は断ったのだが、その紳士の家に遊びにこいとか、そんなのが何回かあった。
話は戻る。
そう、その日の夕方5時
「あのね。昨日のことなんだけど、外国のブローカーから電話かかってきましてね。オー!ミスター!なーんてそんな感じですよ。あそこの有名な会社の人ね。それで、日本法人をちょうどつくるってとこなんですね。それで、あなたにも参加してくれないか、と頼まれたわけです」
「ええ、それで・・・」。私は返答した。
「そこで、あなたに手伝ってもらえないか、と思いまして」
「いやいや。なんで私なんですか。適任はほかにいるでしょう」
「いやいや。若いくせに色んなこと勉強していらっしゃるから、多くの人とコミュニケ-ションができる。これって大事です。購買の人にはなかなかいない。それと『感じ』がいい。きっとお客さんのところに入り込めるでしょう。そして、英語の基礎もできていらっしゃる。一緒にする?やろうか?」
もう、この紳士の口調は、会社間のものではなくなっていた。
・・・・
結果からいうと、もちろん私は断った。
断っていなければ、おそらく私は「世界一の外資系営業マンになってみろ!!」というメールマガジンを発行していただろう。
私は、できるだけその会話を避け、たわいもない会話を40分ほどしたあとに、丁寧に今回の話を断り、お帰りいただいた。
「まだ時期尚早でしょう」とか
「まだ学びきっていないことがたくさんある」とか
そんな感じで、遠まわしに辞退した。
そして、いつも通り「またよろしくお願い致します」といって別れた。
いまごろ、この決断スピードの遅い私を薄ら笑いを浮かべ思い出している「彼」の姿が浮かぶ。
そんなこともありつつ、その日は終わった。
見送ったときのなんとなく哀しそうな彼のうしろ姿は昨日のように思い出される。