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無能なバイヤー、有能なバイヤー(1)
「お前のことは評価できないんだ!!」
若手バイヤーは目の前が真っ暗になった気がした。
その期の評価結果を教えてくれる課長との面談日。
その若手バイヤーは、入社日が浅いにも関わらず、それまで成果を上げていた。
誰よりも高いコストダウン率。何か新しい話があれば、本当の担当ではなくて、まずそのバイヤーに電話が設計者からかかってくる。
当然、机を空ける時間が多くなった。
ほとんど、課長に相談することなどない。
自分で決め、自分で実行してきた。
その中には自分の仕事ではないこともたくさんあった。他の先輩の業務であっても頼まれたら喜んでやった。本当はウソばかりのコストダウン報告ばっかりしている先輩バイヤーを見ては、見下した気分になった。
「このコストダウンはウソなんです」と、自分の業績を否定することもあった。「単に、今まで高く買っていただけなんです」と課のコストダウン成績を下げることもやってみせた。
何もかもは、当然のことだった。無意味な報告なんて存在することがあってはいけない。
そうやって進んできたバイヤーにとって、課長のコメントは冷酷すぎた。
「いや、お前がやってるのは知ってるんだ。だけど、お前のことは評価できないんだ」
そのバイヤーは、「もうここにいる時間は長くないな」と感じた。
・・・・
そのバイヤーは私だった。
今まで何人のバイヤーが、「自分の課にとって不利益になるから」といって、本当に重要な仕事を剥奪されてきただろうか。
残念なことながら、こういうことが起きる。
ある製品を買うとする。コストは90円だ。そして、前期は100円だったとする。
その90円がめちゃめちゃ安く、バイヤーが努力したコストであっても、違う部品において何の努力もせずに、100円を80円にしたバイヤーの方が評価されることがある。
現在の購買部は「前値」という尺度以外はなかなか持ち得ないからだ。
後者のバイヤーが買っている80円が、たとえ市場から見ると安くないかもしれないが--、いずれにせよ前値からより下げた方が評価されることがよくある。
前任のバイヤーが無能であるほど評価されるという、訳のわからない評価システムが存在する。
こんな評価システムであれば、バカバカしくて付き合っていられない。そう思い、会社に真から役立つことに注力するのがバイヤーにとって当然の感覚だが、そういうバイヤーが評価されなかったりする。
だから、これまで腐れていったバイヤーを多く見てきた。
私などに応援されても仕方がないが、そういうバイヤーを見るにつけ「頑張って」と心で叫んできた。