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プロレスとバイヤー(1)
「なんでこんなバカげたこと決めたんだよ！！」
そのバイヤーは隣の先輩がボヤくことを聞いて驚いた。
「絶対にありえないこと」が行われつつある、とその先輩バイヤーはいうのだった。
しかも、それは会社のトップの命令。
「これは前代未聞」だそうだった。
内容は、「各バイヤーが持っている今期の品種別購買発注方針を、全社員が見れるサーバーに置け」というもの。
そのバイヤーにとっては「ふうん、今まで見れなかったんだ」という程度の認識しかなかった。
しかし、その先輩バイヤーは憤りを隠せなかったのだった。
「設計にこんな情報が漏れるなんて、絶対に今後支障を生むはずだ」と。
そんなたいしたことじゃないじゃないですか？と言うバイヤーに対して、先輩バイヤーは呆れるように言ったのだった。
「トップの奴らはなんでこんなバカげたこと決めたんだよ！！」
バカはトップではなくて、その先輩バイヤーだということに気づいたのはその数年後だった。
・・・・
そのバイヤーは私だった。
入社して間もなくのころだった。
どこの企業でも購買戦略の隠蔽が行われている。
当時は購買戦略、と聞いてよく分からなかった。実は今でもよくわからない。
それは、現状をただ肯定するために力を費やしているか、購買のマスターベーションであることがほとんどだ。
「購買戦略」「品種別購買発注方針」を他部門に提示せよ、と言われても本当に考え抜かれたものであれば隠すことはない。
よく「そういう戦略がメーカーに漏れると困るだろ？」という人がいるが、一体何が困るのか？
もちろん、購買戦略などというものを社外に出すのはご法度であることくらい分かっている。
しかし、だ。例えば設計者がメーカーに対して「あなたのところ購買部門はナンバーワンではなくてナンバーツーとして考えているみたいだよ」と話したとする。
（そもそもこういう会話自体がないような気はするが）「ふうん」で終るだろう。
現状を追従しているだけか、その戦略を問われたときに上手く答えることが出来ないので、購買部は戦略を「秘密」にしているというのが本当のところだ。
