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絶望感と使命感と(1)
「もう一度、あなたらしい仕事を見つけてみませんか?」
そのバイヤーは、あるポスターのコピーをいつの間にか凝視していた。
バイヤーはずっとずっとそのポスターのコピーを心の中に留めることになる。
それは、取引先へ向かう電車の中で見つけた有名な転職斡旋企業のポスターだった。
「もう一度、あなたらしい仕事を見つけてみませんか?」
第二新卒を転職へと誘うフレーズが赤い文字で大きく踊っていた。
そのバイヤーは、そのとき入社一年目で、全く希望していない購買部に配属され、わけ の分からない業務が次々に降ってくる中で、納期のフォローのためにサプライ ヤーに行こうとしていた。
そのバイヤーのせいではないのに、納期が遅れれば責任を押し付けられる。
やっと仕入れても、コストが高ければ怒られる。
矛盾と不条理の中疲れきっていたバイヤーは、そのポスターから目が離せなくなったのだ。
・・・・
そのバイヤーは私だった。
私は大学在籍時、いわゆる「就活」というものをせず、二社しか面接に行かなかった。
そのうちの一社の大手企業に就職が決まったものの、配属された購買部は異常に忙しく、配属されたすぐから終電の時間にならないと帰れなかった。
導入したばかりの発注システムは日々エラーを生じさせ、納期と発注ロットはむちゃくちゃ。
契約コストの入力値にもバグが起き、下請け事業者に頭を下げにいったかと思えば、戻ってきた私の机の隣には生産管理の恐いオヤジが納期遅延に対して怒鳴り込みに来ていた。
帰宅しても悔しさと妙な疲れで眠れない日が続き、ビールを毎日飲んで眠っていた。
もちろん、楽しさがなかったわけではない。
この過程を通じて取引のなくなった今でも連絡をとりあっている友人もできた。
また、多くの例外処理や業務 の基本を人並み以上に学んだのもこのときの経験があったからだ。
通常以上の業務を与えられ、それに対処するだけのスキルも身についた。
ただ、楽しいことや学ぶことが多少あったとはいえ、入社したての社員にとってトラブルや激務続きではモチベーションが上がるはずもない。
周囲の同期がスムーズに活躍していく中、私は毎日辞めることを考えていた。
そのときに、ポスターのコピーに目が離せなくなったのだ。
「もう一度、あなたらしい仕事を見つけてみませんか?」