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虚業、虚像、虚構(1)
「この見積りは大嘘ですか!!」
バイヤーは珍しく営業マンに詰問していた。
ある交渉でのこと。
とある製品の保守(修理)を依頼したところ、営業マンから提出された見積りが異常に高かったのだ。
おおよそ予算の倍ほどの値段がそこには記載されていた。
「こんなにかかっちゃったんだ・・・」、とバイヤーはまず嘆いてみせた。
しかも、その保守は初めてであり前回の見積りと比較することもできない。
そこで、バイヤーならば誰でもやるように「この詳細を教えてください」と要求した。保守の場合は部品代など些細なものだ。
ほとんどの場合は、保守に要した人間数と時間数で値段が決まってくるであろう、ということくらいは予想できた。
「内容ですか・・・」と少しつまってしまった営業マンもしぶしぶ中身を提出してきた。
すると、そこにはありえない時間数が記載されていた。
「要員2名×40時間」とそこにはあった。
たまたまその製品は類似品が市場に少なからず出回っているため、その営業マンの企業としては保守が珍しくない。しかも、設置されている現場で作業を実施するものではない。
だから、バイヤーは早速「似たようなヤツ修理している様子を見せてくださいよ」と言った。
嫌がる営業マンを同行させ見た現場では、要員は1名のみ、時間は4時間程度で終了する「素晴らしき」光景をみることができた。
バイヤーは見学終了後の打ち合わせ時に、ついつい口に出してしまったのだ。
「なんなんすか、この見積りは!中身は大嘘なんですか!」と。
・・・・
そのバイヤーは私だった。
私は「値段を下げたければ、交渉などしない。見積り内容と、実際の作業内容を一致させるだけでよい」という強い信念を持っている。
が、そんなことは今回の主題ではない。
そういうことはコストテーブル派の偉い購買分野の先生がたくさん書いているから譲ることにする。
そんなことではないのだ。
(もちろん、そういうことは大切であり、基本とすべきものだ。誤解なきよう)
上記エピソードには二つの大きな問題がある、と今では思う。
しかも、私自身うまく解決できていない種類の問題である。
一つ目。
よくバイヤーが「高い見積りが出てきたんだけど、交渉でなんとか下げることができたよ」と言うとき、それは単に「発注前に価格すら分かっていなかった」だけではないか、ということ。
二つ目。
バイヤーはそもそも「実際の価値ではなく、相手が働いた時間しか評価できない。すなわち、時間給の査定しかできないのではないか」ということ。
その二つである。