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材料高騰学(1)
「そんなの知るかよっ!」
バイヤーが月末の決済書類を上司に提出したときだった。
「おい、これ何だ?」と上司はバイヤーを呼んだ。
「やっぱりか」とバイヤーは思った。
普段であれば「どうぞ何でも聞いてください」というスタンスのバイヤーも、その決済については叱責を免れないと思っていた。だから、書類はこそっと出し、逃げるかのように上司の机から去っていったのだった。
その決済は「材料高騰によるコストアップの決済」だった。
そりゃ会社としては簡単に認めることができるはずがない。
でも「これまでの価格じゃぁ納品できません」といわれて必死に交渉した結果だ。これよりもコスト抑制できるはずもない。
上司は冷たく「なんでコレ、コストが上がってるんだよ」とだけバイヤーに訊いた。
「いや、最近の市況のせいで、これくらいのコストアップを認めないと納入を止めるって言われているんですよ」とバイヤーは言った。
すると、上司は怒り狂って言った。
「そんなの知るかよ!!お前、コストアップさせるなんてどういう気だ!!」
・・・・
そのバイヤーは私だった。
ああ。
今日も、これと似た光景がどれほど日本中で繰り広げられているだろうか。
こういう話をすると必ず二つの議論がなされる。
(1).そもそも一社からしか買えないような調達構造を創り上げたバイヤーが悪いのだ
(2).そういう値上げの際に、理論上どれだけ上がったかを冷静に見極めるべきだ
こういう二つだ。
しかし、(1)はもっともだが、そういう状況で仕事を引き継いだばかりのバイヤーにとって、あるいは確かにそうかもしれないが現実問題としてそういう状況にあるバイヤーにとってなんら答えにならない。
バカに対して、バカと再定義してもなんら問題の解決にならないのと同じことだ。
そして、(2)。大企業であれば見積り詳細を見せてくれるだろうが、そういう力もない小企業を相手にしているバイヤーは、「詳細の見積りを見せてくれないと値上げは認めない」と言って終わるのだろうか?
「よく分からないが、材料が値上がりしているのは事実だ。これを認めてくれないと会社が潰れてしまう」と言われたときどうするのか、という深刻な問題なのである。
・・・・
私の事例の場合は、結局コストをアップさせることで決着した。
それは私が「上司は納得してくれないかもしれないが、バイヤー個人としてはできるだけのことをやった」と証明できたからだ。
結局は、「バイヤーが納得できるまで努力したか」ということを問わざるを得ない。
それが最終的に30%アップしたとしても、100%アップしたとしても「与えられた状況で最善策を尽くせたか」ということになる。
もちろん、究極的には材料高騰に備えて、代替可能な材料を用意しておく、などの対策は必要であるが、材料全般が上がっている現状においてはどうしようもない現実もやはり存在してしまう。
詳細な見積りを出せないサプライヤーであっても、出せないなりにどれだけ「最大限の努力」をさせるか、したと証明してもらうか。
それを「そもそも一社からしか買えないような調達構造を創り上げたバイヤーが悪いのだ」と冷たく言い放つだけの冷静さは私には、ない。
サプライヤー企業の購買部門が弱く、材料を高値で購入せざるを得なくても、その材料交渉の場に出て行って代理交渉するなど(これは極論だが)出来ることはたくさんある。
それを、汗をかいて必死にやったかどうか。それしかない。