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上司と部下の価値(2)
そのバイヤーは私だった。
自分の性格だろうか。上司に「どうしたらよいのでしょう」と相談したことなどなく、常に「おのれの仕事は、自分だけが責任を持って遂行せねば、助けてくれる人などいるものか」と信じてきた。
いつも困ったような顔をして上司に相談ばかりしているバイヤーを見ると、上司に同情を禁じえない。
しかし、である。
私にはその信念ゆえか、あまりに上司に相談せずに物事を進めすぎだ、という指摘を受けることになる。
そんなこと知るか。
うそうそ。
日本型組織においては、未だにピラミッド型の情報伝達システムが健在だ。だから、もしある上司をすっ飛ばしてしまうと、すっ飛ばされた上司はときとして「自分の存在を否定された」かのように感じて憤慨してしまう。
解決方法は簡単だ。
自分の中で設定しておき(毎週何曜日かに)定期的に上司に仕事の進捗をメールすればよい。
考えてみれば、購買の仕事は、各人の受け持っている領域が広いため、とても上司が把握できるレベルではない。
したがって進捗報告する必要すらないのではないか、という結論になる。が、自分の仕事の整理のためにも報告しておくことは有益である(現状の組織の中で上手くやってゆくのも大切だ、と私は後年気づくことになる)。
「メールなど読んでいられるか」と苦情を言う上司には「それなら、名刺からメールアドレスを削除なさった方がいいのではないですか」と皮肉を返すしかない。
一日に100件のメールすら処理できない人種は今後確実に退場させられるが、現在であればまだ紙で報告せねばならないことも許してあげよう。
・・・・
多くの会社では同期間で多少の差はあれど、加齢とともに年収が増えてゆく。
増えてゆく、ということは能力がその分向上してゆく、ということだ。建前上は。
調達の知識の広さはすさまじい。世界を見渡せば、いかに自分の勉強が足らないかを思い知らされる。
しかし、実際は加齢とともに着実に自分の能力を増してゆく、ということは難しい。
不可能ではない。しかし、難しい。だから、どうしても「上司が無能」だったり「上司が思いつきでものを言う」だったりすることの確率は上がってゆく。
勉強の気運が出てきたことは非常に喜ばしいことではある。が、その他大勢の人たちが昔からのパラダイムを持ち続けている、ということは哀しいことでもある。
メールで3万人企業の社長とヒラ社員が情報のやりとりができる、ということの真の意味を考えなければいけない。
それは、情報という壁を使って「年輩社員は偉いんだぞ」という虚勢を張っていたことが通用しなくなるということである。
先輩バイヤーは能力が高いんだ、という虚像が崩れる、ということである。
・・・・
あるとき私のもとにメールが届いた。購買部門の部長さんで「一度話をしよう」ということになった。
その部長はこう言った。
「あなただったら、上司の言うことがおかしくてたまらないでしょう」
「そんなことばかりじゃないですよ」と私
「いや、ボクも課長職なんて要らないんじゃないかと思ってね」
「というのは?」
「部員とはメールで連絡すればいいでしょう。それに、彼らもボクに直接資料を送付して説明してくれるし。部員がしっかりしていれば、課長は要らないんじゃないかなぁ」
「つまり、中間管理職の価値はゼロになった、ということですか」
「違うよ、マイナスだよ。給料が発生している分」
マイナス!なんと!
中間管理職の価値はゼロではなく、マイナスになろうとしている。
早くバイヤーは上司の価値をマイナスにできるように進め。そして、中間管理職はそれでもなお、自分の実力を見せつけて「格の違い」を教えてみろ。
その新たな闘いの中で、これまで見たことのない購買像が登場してくるのは間違いがない。
「バイヤーは上司の年収を下げろ!!」