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バスケットボールの似合う夜(1)
「8割のバイヤーは辞めてもらっていいよ!」
そのバイヤーは驚いた。
ある企業の取締役との会話中。
そこの企業は「購買部門の若手のほとんどがバスケットボール部員だ」という。
そこで、そのバイヤーは訊いてみた。「そんなに偶然ってあるものですか」と。
取締役は答えて言う。「もちろん、意図的にですよ」と。「バスケットボールの枠で入社させるでしょう。そうしたら、経理や総務なんかにはいかせられない。頭を使うからね。で、設計もできない。となると、営業か購買しかない。でも、営業で毎日取引先に行くほど時間がない。練習があるからね」と。
購買部門も舐められたものである。
そのバイヤーも、れっきとした「購買部門所属」であったのだが、その目の前にいる人間に対して失礼だとは微塵も感じていない様子だった。
だから、そのバイヤーはもう一つ訊いてみた。「そういう人たちがバスケットの現役を退いたら、使い物になるのですかね」と。
するとその取締役は平然と言ってのけるのであった。
「まぁ、辞めてゆく人間も多いしね。それに、8割は辞めてもらっても困らないよ」と。
これが、世の中一般の経営陣の理解か、と思うと背筋が寒くなった。
たとえ、それ以前に「8割の社員は不要である」というコンサルタントの発言を聞いていても、である。
・・・・
そのバイヤーは私だった。
もちろん、「背筋が寒くなる」というのは比喩である。そうなったこともない。実は私はどこを「背筋」というのかよく知らない。
いや、そういう話ではなかった。
「購買の8割は不要」この言葉は私に考えさせるのに十分だった。
現在、アウトソーシングの動きが活発である。日経新聞を見るまでもなく、現在事務系社員の仕事が細分化され、「任せられるものは低賃金国へ」という流れが止まらない。
これはダニエルピンクが著書「ハイコンセプト」で述べた内容よろしく、ブルーカラーがアジアに仕事を剥奪されていったという構図がホワイトカラーにも及んでいるのである。
私は以前、「机を叩く交渉しかできないバイヤーを雇うより、その金で机を叩く低賃金刻労働者を3人雇え」と書いた。
その考えに、今も変更はない。
しかし、そういう「切り捨てられる」運命の購買部員に対して、そのように平然と言ってのける経営者を見ると「ああ、やはりそういう認識だったか」という思いを新たにせずにおれない。
バスケットボール部に属し、大きな声と礼儀正しさだけを求められていることに誇りを感じていても、である。