食料品やトイレットペーパー、電池やガソリン……今回の大震災の被災地域以外で、こんな製品の買い占めが起こっているそうです。テレビの震災関連特別番組のキャスターは、日本人として恥ずべき行動と、買い占めを強く非難しています。そして、買い占めをおこなった親を子供が窘めた話が美談として紹介されてもいます。今回の買い占め行動を、バイヤーの観点で分析してみます。まず、買い占めに対する様々な非難の根拠となっている、被災地域への物資の投入との関係です。被災地域以外での買い占め行動によって、被災地への物資の供給が滞っている、おこなわれている報道はそんな風にもとれます。被災者の元へ救援物資が届かない場合、原因は大きく2つ想定できます。1. 救援物資そのものが不足している2. 救援物資を届ける手段に問題がある今回の震災の被災地域は、地震の規模が大きかったこと、震源そのものが数百キロに及ぶ広大であることにより、岩手、宮城、福島、茨城と、東日本の太平洋側に広がっています。この4県の人口を合計すると、860万人になります。日本の総人口にしめる割合では、6.8%です。非難している被災者の数は、発表元によっても異なりますが、30万人前後です。蓮舫消費者相によれば、商品供給は震災前の2倍に達しており、通常の消費行動であれば、物資不足は起こらないことを重ねて強調しています。ここ数日は、コンビニエンスストアでもカップ麺やミネラルウォーターが売り切れています。確かに、普段以上に消費者が購入していることは否めません。しかし、この被災地域以外での消費行動と、被災地域に支援物資が行き渡らないということに、直接の因果関係が成立するのでしょうか。仮に被災地域の全人口へ物資が行き渡っていないと仮定したとしても、需要>供給能力とは考えられません。支援物資が届かないことには、何か別の原因があるはずです。このページには、被災地域への物流の要になる道路網の被害状況が、刻々と報告されています。このページにアップされる情報を、地震直後から追ってゆくと、既に地震発生直後に、被災地域の主要幹線道路の約80%の通行可否状況が確認されています。確認された箇所の実に9割以上で通行ができなくなっています。(44箇所中39箇所)そして、ここまで確認ができた段階で、御存知の通り津波の影響によって、道路の通行可否の確認活動そのものがストップします。これは、復旧活動の前の段階です。これは、津波への警報が注意報へと変わる14日まで続きます。そして、被災地域への物流路の確保を目指した「くしの歯作戦」と呼ばれる道路復旧への取り組みを完了するのは18日のことです。この道路復旧については、今年になって興味深い指摘が行なわれていました。今年の2月17日に放送されたNHKの「クローズアップ現代」。テーマは、災害対応空白地帯というものです。ここから、だいたいの内容と、ダイジェスト版を見ることができます。この日の放送では、災害対応力の減退の状況がレポートされていました。中でも、今回の道路の復旧状況を踏まえて思い出されたのが、公共事業の縮小が、災害からの復旧能力の減退を生んでいるとする指摘です。地方行政は、各地域の建設業者と、災害発生時の復旧に際していわゆる災害協定を結んでいました。ところが、かつては自社で様々な重機を保有していた建設会社が、公共事業の縮小(この15年で約半分に縮小)に伴って、工事毎に重機をレンタルして確保する方法へと変化しています。番組の中では、各地域にある建設会社以外で重機を所有する会社との連携といった取り組みを紹介していました。しかし、この時点で災害後の道路の復旧能力に大きな疑問が呈されていたのです。前回のメルマガでもお伝えしましたが、自然災害被災への自衛手段として、各家庭で3日分の食料の備蓄が必要です。しかし今回の被災地域は、繰り返し映像で流されている通り、家庭レベルでの備蓄そのものが津波によって被害を受けた可能性が高い。そして震災直後の支援活動に必要な物流網の復旧も、津波による二次災害発生の可能性により、震災直後は動くことができなかった。被災地域への物流網が確保されたのは、震災発生から一週間後です。さて、被災者の元へ救援物資が届かない原因へと戻ります。これらの情報から判断するに、まず被災者の元へ救援物資が届かない問題の、仮説による原因は次の通りです。① 地震の震源場所によって、地震の揺れでなく、後に起こる津波への対応も必要となり、物流網の被害確認及び復旧が停滞せざるを得なかったこと② 公共事業削減による建設会社の弱体化が、復旧能力そのものの弱体化に繋がり、物流網の復旧に大きな影響=遅れを及ぼしたこと③ 津波が個人レベルでの災害への備えにも大きな損害を及ぼし、いきなり被災地外からの援助が必要になったこと少なくともこの3つの点は、今起きている事象に大きく影響していると考えられます。またこのページは、避難所の分布を視覚的に確認することができます。地図の縮尺を調整して、関西を含めた日本地図にしてみてください。今回の被害がどれほど大きな地域に及んでいるかを視覚的に理解することができます。単純に比較はできませんが、阪神大震災の被災地域とはくらべものにならないほどに広大な地域が被災しているのです。買い占めをおこなった人としなかった自分を切り分けて、買い占めた人を非難する、また買い占めをしなかったことを賛美する報道も続いています。しかしそもそも論として、いま目の前に売っている商品がある。それを購入するのに十分なお金も持ち合わせている。その上で購入したことがなぜ批判の対象になるのでしょう。略奪や、各店舗で自主的に行なわれている規制(一人三個までとかね)を上回って無理矢理購入したのではありません。震災に見舞われてもなるべく普段の行動を続けるための自己防衛行動です。そして、被災地域以外の買い控え行動が、被災地への支援を加速するとは、今回調べた限りでは考えられませんでした。被災地域以外での買い占めと、被災地域への支援のスピードには、直接の因果関係があると、私には判断できません。で、あるならば、日本復活への貢献の一つとして、どんどんものを買ってお金を使って貰うというのも、巡り巡った貢献に繋がることになるはずです。自分なりに震災発生後の問題を解き明かしてなお、心情的・道義的にどうか、との問題は残ります。しかし、心情とか道義といった問題は、自分の中で処理すべき問題であって、他人に強制するものではないはずです。このページにもあるとおり、被災地への大きな物流網は確保されました。これから、復興へ向けての活動が活発化されるはずです。このメルマガをお読みの皆さんで、被災地外の方、もしくは然程被害が大きく無かった地域の方は今、自社のサプライチェーンにどれ程の影響がでているかの確認を行なわれていることと存じます。今回は、モノを運ぶ部分にポイントを置いて、いろいろな情報収集を試みました。これから読者の皆さんが行なうサプライチェーンの確認においても、原因と結果にシンプルな関係がないとの前提で行なうべきです。そもそもサプライチェーンとは、様々な要素が複雑に絡み合っているものです。日本には「風が吹けば桶屋が儲かる」といったことわざがあります。サプライチェーンの状況確認にも、なぜ風が吹くと桶屋がもうかるのか的思考が重要です。物事そんなに単純ではない、私は、今回の震災からまずそんな教訓を得ることになったのです。 ぜひ、ついでにこちらも見てください!クリックして下さい。(→)無料で役立つ調達・購買教材を提供していますのでご覧ください