前々回、前回に引き続き、どうやって新規サプライヤーを開拓するのかについて、である。前回までは、各都道府県レベルで主催される商談会を利用して、サプライヤーとして採用できるかもしれない企業の目星の付け方までを述べた。そしていよいよ、実際に採用する具体的なプロセスに入る。

● 自分から出向くバイヤーになろう

今回のきっかけのように、非常に短時間の商談会の場で見いだした場合、サプライヤー側も同じようにビジネスの可能性を見いだしていれば、このような展開になることが多い。

「後日、改めてご挨拶へ伺わせていただきます」

そしてバイヤーとして、訪問されるのを待つのである。これでも良いのであるが、バイヤーとして採用したいとの想いが強いのであれば、早い段階で相手の会社なり工場を訪問することをお勧めする。当然、発注するのであれば、何らかのメリットがなければならない。その部分の確認は不可欠なのだが、一刻も早く確認を終えて、なおかつメリットが見いだせそうであれば、とにかく、何をおいても早急に訪問をおこなうべきなのだ。理由は次の通りだ。

潜在的に発注可能なサプライヤーは、この世の中には多く存在する。従い、新規サプライヤーの開拓をおこなうと決めたのであれば、可能性を可能もしくは不可能に見極めるスピードが必要なのである。可能となれば、新規サプライヤー採用にともなう一連のアクションを社内関連部門とともに行う。一方不可能な場合は、すぐに次へ目を向けなければならない。採用になるのかどうかわからない……そんな状態が続くことは、サプライヤーにもバイヤーにも決して好ましい状況ではない。それは、新規サプライヤーを開拓する途上ではあるが、成果を生むかどうかわからない段階でバイヤーは決して満足してはならないのである。

● 新規サプライヤーで考える無駄と効率

新規サプライヤーをおこなう上でのほんとうの無駄と、効率的なアクションについて考えてみたい。

サプライヤーの新規開拓とは、本来的にサプライヤーが持つリソースにも左右されるが、タイミングにも大きな影響を受ける。したがい、今がその時期でなければ、すぐに次なる可能性にかけるアクションを起こさなければならない。可能性がなければ、すぎさま次のポテンシャルサプライヤーへと軸足を移すこと、これが新規サプライヤーの開拓で追い求めるべき効率的な動きである。採用できるかどうかよくわからないけど、いまコンタクトしているサプライヤー候補がいます……という状況は、まさに新規サプライヤー開拓の機会損失状態であり、無駄なのである。まして現在のように全般的に仕事量が少なく、買い手市場であるならば、バイヤーが求めれば求めるだけ採用可能性の高いサプライヤーを見いだすことが可能である。今、バイヤーという買い手には強い追い風が吹いていることを忘れてはならない。

いきなりサプライヤーを訪問することに異を唱えられるケースもある。無駄なんて指摘を受けることもあるだろう。しかし、ほんとうに「無駄」だろうか。営業とは、潜在顧客とのコンタクトという無駄の積み重ねで顧客を見いだすのである。同じ事を逆から行うことになる新規サプライヤー開拓の一つのプロセスを「無駄」ということはできるはずがない。そして、バイヤーに課せられる責任に立ち返って、この点を少し考えてみたい。

営業としてモノやサービスを売り込む場合、獲得しなければならないのはお金である。従い、モノ・サービスの対価としての代金回収ができるか否かが一つのポイントになる。お金とは、個人からでも、大企業からのものでも全く変わることはない。日本の典型的な企業間での商慣習である掛け売り・掛け買いでは、売り手が買い手の信用力を調査する事が重要になるが、この「信用力」は、販売先の訪問でその内容を計ることはできない。従い、以下のような企業調査がビジネスとして成り立つのである。

帝国データバンク  http://www.tdb.co.jp/
東京商工リサーチ  http://www.tsr-net.co.jp/
リスクモンスター  http://www.riskmonster.co.jp/
信用交換所企業情報 http://www.sinyo.co.jp/
東京経済企業情報  http://www.tokyo-keizai.com/
会社四季報データベース http://www.toyokeizai.net/shop/db/
シェアーズ企業財務情報グラフ http://www.shares.ne.jp/analysis

一方、バイヤーが獲得すべきモノ・サービスは、提供側の都合によって千差万別なものである。特に目に見えるモノを調達する場合には、そのモノの品質は生産現場である先方企業の様子に表現されていると考えるべきである。5Sといった一見品質に直接的な因果関係のなさそうな考え方が、日本のみならず世界の製造の現場で受け入れられる理由は、整理整頓が巡り巡って製品品質に影響を及ぼすことが多いことを物語っているのである。で、あるならば、バイヤーとしてほんとうに採用するか否かの最初の判断を下すために、サプライヤーのやりとりの早いタイミングで、相手の会社なり工場を訪問することは、新規サプライヤー採用に費やす自社のリソースを無駄にしないためにも欠かすことができないのである。繰り返しになるが、この時点でサプライヤーを訪問することが、先々のほんとうの無駄を排除し、新規サプライヤー開拓プロセスにおけるバイヤーの存在意義を高める処方箋になるのである。

● サプライヤーを訪問して何をするのか

さて、実際にサプライヤーを訪問して何を行うか、である。
この有料マガジンをご購読の皆様であれば、サプライヤーを訪問した際のバイヤーとしての対応のセオリーは良く御存知であろう。そのセオリーに乗っ取れば、このような流れで訪問先での時間を過ごすのではないだろうか。

(1) 挨拶(名刺交換)

(2) 会社説明

(3) 工場見学(メーカーであれば)

(4) 質疑応答

  ① 会社案内や、工場案内での質問

  ② 具体的な見積依頼案件の説明

  ③ 取引条件の説明(発注条件、支払い条件)

ここで、自分というバイヤーを相手に印象づけ、今後のビジネスにもとっても有用なプロセスを盛り込むことを提案したい。それは、自らを相手に理解してもらうためにおこなうプレゼンテーションである。

初めての訪問で、サプライヤー側も新規のビジネスに期待を寄せている状況であれば、営業部門だけでなく、技術・設計部門であったり、工場であれば工場長であったりといった方も挨拶に出てくるはずである。出てくる方はすっかり挨拶だけの気持ちで、名刺交換が終われば早々に退散するつもりだ。しかし、ここで名刺交換が終わってすぐに、自社の紹介をやってしまうのである。できうれば、短時間なので皆さんへ聞いてほしい旨を伝え、サプライヤー側関係者全員の前で、できるだけ短時間(10分~15分)で行ってしまうのである。プレゼンテーションへ盛り込む内容は次の通りである。

1) 自社紹介

2) 自分のバイヤーとしての業務内容の紹介 (購入担当製品、購入額)

3) 自社の置かれた市場分析

4) 今回の訪問目的

5) 見積依頼を行う製品の大まかな説明

15分あったとしても、各項目3分である。一般的に聞きやすいプレゼンテーションとは、350字~400字/一分間に読み上げるスピードといわれている。従い10分であれば原稿用紙10枚分の内容になる。

そして第一、二回でも書いたとおり、自社の会社案内やインターネットのホームページに記載している情報に関しては、極力言葉にしない。会社案内やインターネットのホームページをご参照くださいと言い添えれば良い。ポイントは、上記3)~5)の三点である。

3)自社のおかれた市場分析とは、最終的に調達・購買戦略の元になる自社の市場分析を相手に伝える目的である。自社の調達・購買戦略によって新規サプライヤーを探しており、その一環としての訪問であることを伝えるのである。

4)今回の訪問目的とは、新規にサプライヤーを探している、だけでは不足である。先に述べた調達・購買戦略により新規サプライヤーを探しており、今回訪問しているとの点を、再度強調するのだ。ここで重要なポイントは、バイヤーとして訪問に至った魅力と、自社の求める理想のサプライヤーをいかに結びつけることができるか、に尽きる。訪問時点で入手している情報の具体的に魅力を感じた点を、相手をやんわり褒める形で伝えられれば合格である。

5)見積依頼を行う製品の大まかな説明とは、どのような製品・サービスに使用されるのか、それは自社の中でどんなポジションにいるのか。ポジションは当然高く、重要視しているということを伝える事が不可欠である。ここでは、見積依頼に記載されていない背景を伝えるのである。

● なぜバイヤーがサプライヤーでプレゼンテーションをするのか

ここで、なぜ買いに行っている立場なのにプレゼンをするのか、について述べたいと思う。バイヤーは、数多あるサプライヤーからサプライヤーを選別し決定する。これは同時に、サプライヤー側もバイヤー企業を業績や製品を、購買額とともに吟味して選別していることに他ならない。バイヤーは、当たり前だが選ぶ側にいること、決定権を持っていることと同時に、選ばれる側にいることを強く意識してサプライヤーとのビジネスを行うべきなのである。バイヤーとは選ばれた上に、他の顧客よりも良い条件での取引を志向すべきであり、そのためには、自社の求めるモノ・サービスを的確にその背景とともにサプライヤーへ伝える努力を行わなければならないのである。

そしてこのサプライヤーで行うバイヤーのプレゼンテーションは、新規サプライヤーにだけ有効な手段ではない。既存の、今現在進行形で取引を行っているサプライヤーに対しても行ってみる価値のあるアクションだ。特に、前任者からサプライヤーを引き継いだ場合である。

バイヤーとして新しく担当するために相手を知ることはもちろんだが、現在のバイヤー企業の実情を伝えるのである。特に、引き継いだ時点であまり好ましくない状態に陥っているサプライヤーの場合は、まず自社の状況を的確に伝えることからはじめてみたらいかがであろうか。なぜ、好ましくない関係に陥ったのか、その原因を解き明かし、現在そして将来の調達・購買戦略と照らし合わせた上で、ほんとうに必要なリソースなのかどうか、そういうことを判断するのも、バイヤーの重要な任務なのである。バイヤーとは、新規の取引ももちろん既存の取引であっても、今より好ましい条件を求める生き物なのである。

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