読み解いてしまって良いのでしょうか。良いのです。先日は、大阪の毎日放送から「KAGEROU」がなぜあれほど売れたのかを説明してくれと取材を受けました。

「せやねん!」という番組です。関西ローカルの番組なので、どの程度使われたかはわかりません。ただ、解説した内容は次のとおりです。

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本が爆発的に売れるとき、三つの要素がある。

1.社会性
2.時代性
3.手軽な価格であること

これを「KAGEROU」に当てはめてみれば、

1.社会性:文学賞の受賞と、芸能界引退、妻の絢香さんの存在。マスコミが報じるにぴったりの題材を提供していた。社会的認知が異常に高まった。
2.時代性:自殺や命をテーマにした作品だった。
3.手軽な価格であること:1000円台、あるいはそれ以下の価格設定。「KAGEROU」は1470円。「バカの壁」(養老孟司さん)は714円だった。

これまで、アマゾンで星一つが一番多いのは「リアル鬼ごっこ」といわれていた。「KAGEROU」は非常に星一つが多く、酷評ばかりだ。ただ、「リアル鬼ごっこ」では著者が文章力を高めて、それ以降の作品の評判はあがった。水嶋ヒロさんは、酷評をいかに自作に結びつけていくことができるか。それが作家としての将来を決めることになるのではないか。

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というものでした。あえて、ここでは、私が感じた作品の良さや悪さについては触れませんでした。

簡単にストーリーを説明しておきましょう。ネタバレにならないように書きます。「KAGEROU」は一人の男性主人公が出てきます。41歳。誕生日の前日です。主人公は屋上遊園地のフェンスから自殺をはかろうとします。借金などで疲れてしまったのですね。すると、そこに突如、黒服の男が現れてその自殺を止めます。すると、彼は人体ブローカーで、主人公の人体(臓器等々)を有効活用するように勧めます。その後主人公は、自分の心臓によって生き延びる可能性のある少女と出会い、そもそも「生きるとは何か」について思惟を重ねてゆきます。

まあ、ざっとこんなストーリーです。この取材のためにちゃんと買って読みました。番組のスタッフから「感想は?」と訊かれましたので、正直に「駄作だと思います」と答えました。岩井志麻子さんが絶賛していたので、私は期待していたのですよ。それがあまりの駄作に驚いてしまいました。

しかし、ここでは私はそのことについては触れません。もう文芸評論家諸氏が、あまりに杜撰さにいくつものメッセージを発しているからです。

私が言いたいのは、実は逆のことです。一般の方からの評判は、大変良い。これに注目したいのです。私は「一般人は文芸書を読み解く能力がない」と批判したいわけではありません。私は一年間で、無数の本を読みます。ただ、小説はそのなかの1割にすぎません。だから、文芸評論家の足元にも及びませんし、評論的な観点を伝えたいわけではないのです。

実は、私は「一般評価」と「プロ評価」の差にこそ、現在の出版不況の原因を見ます。「KAGEROU」は駄作と思いますけれど、会話文が多く、表現も平易で、大変読みやすいことはたしかです。また人物描写も単純で、ストーリーもコメディではないかと思うほど素直なものです(おそらく、星新一さんかカズオ・イシグロさんの影響を受けたのでしょう)。まさにその点をこそプロ(やアマゾンでレビューした本読みたち)は批判したわけです。でも、逆にいえば、このレベルくらいの内容でなければ、大衆には受け入れられないということでもあります。

繰り返しますが、私は「一般人は文芸書を読み解く能力がない」と批判したいのではないのですよ。そのことが良いことか悪いことか、私は知りません。ただ、現実を申し上げているだけです。

たとえば、私が旧ブッシュ政権について書くとしますよね。これまでのジョージ・ブッシュの失策を述べた後に、「ほんとうに、ブッシュって最高の大統領だったわけだ」と文章を挿入していたとしましょう。すると、届くのですよ、批判メールが。普通に読めば、「最高」というのは最大級の皮肉であることがわかるでしょう。それをわかってもらえない。「なぜブッシュが最高なんだ」といわれるんです。もちろん、私の文章が皮肉交じり過ぎてわかりにくいと批判もあるでしょう。しかし、多くの書き手が「文章を正しく読み取ってもらえない」と嘆いています。そうなると、極限までわかりやすい文章の書き手が受け入れられていく。それは当然ではないか。

私はこの傾向を否定しません。大衆が求めるものが「やさしく」「簡単なもの」であれば、それに応じるように商品を創りあげるのが「商売人」の条件だと思うからです。私は『1円家電のカラクリ 0円iPhoneの正体』において、マックス・ウェーバー等の文献からきたるべき「逆転経済」の時代を抉りました。しかし、この本は「難しすぎた」という感想をいただくのですね。それは私が反省するべき点でしょう。

今回、私は「KAGEROU」を読んで、ここに一つ宣言します。

2011年に私が出版するものは、「やさしく」「簡単なもの」に統一します。口語調、異常に親切な解説……それらを施すことに「決め」ました。2011年は生まれ変わった私の本をご覧いただけるでしょう。

おそらく書き手の一人として、「KAGEROU」からそのような行動規範を導いた人はいないでしょう。「陽炎(かげろう)」とは、「春の天気のよい穏やかな日に、地面から炎のような揺らめきが立ちのぼる現象」です。そして「かげろい」とは「夜明け方の光」です。私には、どこか自分が生まれ変わる一筋の光だったのではないか。そう感じてすらいるのです。

なんちて。

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